第160話 導師

文字数 979文字

 私は、ミラン・レゲンイウス。

 (プラーナ)の導き手をしている。



 此のドラゴニュートの国テスラでは、(プラーナ)を遣え無い者は、生活が出来ない。

 何故なら、テスラの民とは、認められないからだ。

 (いにしえ)のの竜が、ドラゴニュートを生み出し、(プラーナ)を伝えたと伝承には在る。

 其れ故、(プラーナ)を遣う事が、竜の民の誇りと為り、掟と為った。

 国民総戦士の国に於いて、(プラーナ)を遣え無い者は、全てに於いて劣ってしまう。

 武にしても、文にしてもだ。

 (プラーナ)を常時纏えるように為る事が、竜の民の常識だった。

 

「お世話になりました、導師。今日、国を出ます。今までありがとうございました」

 今日も一人、(プラーナ)を遣えずにテスラ王国を去る者が居る。

 だが、此の者は王族だった筈だが、掟に従い王族でも国を去らなければならぬのか。

 何故か、数年に一人。

 (プラーナ)を遣え無い者が居る。

 遣える者は、三歳の幼子でも遣える。

 遣え無い者は、死んでも遣え無い。

 其れ故に、不憫でも在る。

 況してや、王族とも為れば、其の心中は如何(いか)ほどのものであろうか。

 ゼスト・テスラ。

 永いテスラ王国の歴史の中で、たった一人の(プラーナ)を遣え無い者。

 無能と呼ばれ、笑い(あざけ)られ、苦汁の飲み込み、鍛錬に次ぐ鍛錬を為した若者。

 神は、何故(なぜ)(かの)若者(わかもの)に、(プラーナ)を纏わせない道を授けたのか。

 (プラーナ)を纏えられれば、一騎当千の強者に為ったであろうに。

 テスラ王国の(プラーナ)遣いの最強の一角に為ったであろうに。

 運命とは、切ないのう。

 ゼスト殿下、いや、王太子を廃嫡され、貴族位も剥奪され、(かばね)も奪われた、只のゼストよ!

 私に取って、(プラーナ)を遣え無くても、我が弟子で在る事に変わりは無い。

 最強に為る器がありながら、最強に為る資格の無かった御子。

 其方(そなた)の人生に、幸在らんことを願う。







 私は、ミラン・レゲンイウス。

 (プラーナ)の導き手、竜気道(ドラゴニックプラーナ)の導師をしている者だ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み