第146話 聖騎士の回想

文字数 1,149文字

 私はジクミーロ・ランスロット。

 カリダドの聖騎士で、職務を終え、教皇猊下に謁見を賜っている。



「では、ランスロット卿。卿の言では、アッバースの正義は正しいと言う判断で良いのだな?」

「はっ! 其の通りでございます、猊下!」

 私は、西方三国で起こったクローマ王国の再興による、アッバース王国の審判に付いて報告をしていた。

「卿がそう判断したのならば、其の件は不問と言うことで対処しましょう。ご苦労様でした、ランスロット卿。只、気になるのは、報告にもあったエルブリタニア帝国の第3皇子ですね。アッバースのハミルクリニカ陛下と、其の近衛を単独で撃破した、……」

 其れはそうだろう。私自身が立ち会ったとは言え、目の前で起こる事実を、私の理性が拒絶した出来事だった。

 力こそ正義のジャイアントを、力で屈服させたエルフの少年。

 獣王国オルスカで、獣王を降した話は真であった。

 誇張もなく、只の事実。

 其れ故に、第3皇子の異常性が確実に伝わる。

 アルグリア大陸で、件の第3皇子を知らない国は、最早存在しないだろう。

 其れだけの偉業を為したのだ。

 アッバースでは表だって謂われはしないが、【化物皇子】と人は呼んでいる。

 此の聖カリダド教国の、カテドナル騎士団の総力を挙げても、勝てないと断言出来る。

 あの少年は、異常だ。



「ふむ、化物か。本当に人でないとしたら。此のアルグリア大陸に不吉を運ぶ存在だとしたら。ランスロット卿、卿に新たな任務を申しつけます。件の第3皇子の正義を審問して下さい! いえ、審問と言う形では不味いかも知れません。ふむ、様子見と言う事で、為人を貴方の目で見極めて来て下さい!」

「はっ! 勅命承りました!」

 ふー、やっと帰って来たばかりで、件の第3皇子の調査とは。

 致し方あるまい。

 私も非常に気にはなっていた。

 あの少年の力の源は何なのか?

 たった1人で、アッバース王国を事実上屈服させた少年が、悪が正義か。

 悪ならば、【異端審問】に掛け、抹殺しなければならない。

 アルグリア大陸の正義を司る【聖カリダド】教国の、存在意義が試される。

 しかし、もし悪と判断しても、異端審問に掛けようとしても、其れを独力で弾き返す力を持つ少年が、素直に聖カリダド教国の命を聞くのだろうか?

 力こそが正義のアッバースを降した、其の力が、もし聖カリダド教国に振り下ろされたら?

 駄目だ、駄目だ。固執した考えは曇りをもたらす。

 最悪の未来に思いを馳せる事を止めた私は、旅立ちの準備を始めたのだった。






 私はジクミーロ・ランスロット。

 カリダドの聖騎士で、【正義の審問官】である。

 
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