第34話 氷狼

文字数 1,398文字

 我はエンプレス。

 十の災厄(アンタッチャブル)の一角、《氷狼》だ。

 青光りする水晶が花のように洞窟の壁一面に咲き乱れる我の寝床、熟睡中の我を起こす輩が、我の縄張りに侵入したようだ。

 何故か、縄張りに

が侵入すると我には解る。

 さて、盟約に従い侵入した生物を排除しに行くか。

 ほう、ただ者ではないな。

 この雪山を野を行くが如く進んでくる2人組に我は純粋に感心した。

 何故なら雪山を登る服装ではなく、ちょっとそこまでお出掛けに行く服装で雪山を登って来るからだ。

 ふっははははは、面白い、面白いぞ。

 我を楽しませてくれよ。

『我は《氷狼》エンプレス。何故、我の縄張りを侵すか?』

 さて、我の問いにどう答えるかのう、ふふふふふ。

「こんにちは、初めまして僕ビクトリアスと言います。今日は突然お邪魔して、ごめんなさい。どうしても欲しい物があって来ました。」

 ほう、欲しい物とな。

 我は問う。

 それは何だと。

 小さきエルフの少年が答える。

 花水晶の密だと。

 ほう、あれが欲しいと申すか。

 まあ、やるのはいいが我にも使命がある。

 残念だが、ここより先に行かせる訳にはいかんな。

『花水晶の密なら、我の寝床に沢山あるぞ。だが、これより先に進む事は我が許さん。どうしても欲しいなら我を倒して進め』

 さて、今度はどう答える? まあ、我と戦うしか道はあるまい。

 このまま帰れば助かる命を粗末にするのか、まあそれもこ奴等の運命よ。

 恨むなら自分達の愚かさを恨め。

「教えてくれて、ありがとう。申し訳ないんだけどエンプレスさん、それを持って来てもらえませんか? お願いします」

 そう我に言い、ペコリと頭を下げる少年。

 え、我に頼むの? いや、いや、いや。

 それは駄目だろ。

 え、駄目なのって? いや、いや、いや。

 それは駄目だろ。

 え、何故駄目かって? え、何故って、何故? 我は考えた。

 うーむ、別に良いのか? 我が再度考えていると、

『おいエンス! せこいぞ! それぐらいいいだろ! 俺の友の願いだ、負けとけ!』

 古き盟約の獣の1柱が喚き出した。

 やっぱりこ奴か、最初から有った3個体目の反応に覚えのあるヤバい気配を感じ我は顔を顰める。

『久しいな、エクスよ。何故お前がここにいる、いやどうやって己の縄張りを出られた?』

 我等、盟約の獣は縄張りに縛られ使命を果たす盟約を結んでいる。

 確かに明らかな生物達の集団の侵略行為には盟約に従い、その集団の寝床を殲滅しに行くが...。

 これは一体? 

『これこそが俺の友の

だ! ひれ伏せ、戦け、膝まずけ!』

 こ奴は全く昔から変わらんな。
 だが、こ奴に友と呼ばせる

があるのは一目瞭然。

 ならその友の力とやらで我もここから離れられるのか? 

 我は問う。

 少年は答える。

 出来ると。

 え、マジか? 

 お前は一体何者だと我は問う。

 するとエルフの少年は恥ずかしそうにビシッとポーズを決め、こう言った。

「僕が“何者”だって? 僕はエンプレス、お前の願いを叶える者だ!」


 そして、我は古き盟約の獣の1柱《黒獣》が友と呼ぶエルフの少年の仲間に加わった。
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