第111話 アッバース王国の受難
文字数 2,134文字
私はジクミーロ・ランスロット。
カリダドの聖騎士だ。
私は教皇猊下の勅命に依り、この度の西方でのクローマ王国の件を調査する為にアッバース王国の王都イブンに来ている。
急遽の訪問となる私を、アッバース王であるハミルクリニカ陛下は寛容にも直ぐに面会をお許しになられた。
「ランスロット卿、久しいな。今回の目的は、クローマ王国の件かな?」
「はっ、お久しぶりです陛下。突然の訪問に対し寛容な対応、誠にありがとう御座います。我ら聖カリダド教国としては、“正義の誓い”に依り隣国アッバースの振るった正義の剣の真偽を確かめるのも務めなれば、何卒広き心を以てお許し下さい」
「ふむ、卿は他の聖騎士達とは違って礼儀を心得ているな。この度の件は、アッバースの先人の英霊が誓約したことを履行したに過ぎん。詳細はカリダドへも通知しておるはずだが?」
確かに通知は来ている。
我が聖カリダド教国とアッバース王国は、隣国である以上に密接な関係にある。
アッバースの先人とカリダド教の教皇との誓約に、両者共にお互いの正義に疑義を持った時には其れを正すべしとある。
聖カリダド教国が創造神を崇拝して出来た教国であり、その創造神が創りし1柱である戦争と武を司る軍神レオを崇拝するジャイアントの国がアッバース王国である。
古の誓約に依り、聖カリダド教国とアッバース王国はお互いの正義を曇らさないようにお互いを誓約で縛った。
それが“正義の誓い”である。
「はっ、確かに。只、クローマ王国再興の王と為るミドデルス・クローマ殿は、今回の正義の剣を望んでおられなかったとか? 高潔な魂の系譜であるミドデルス殿の意に反してのこの度の行い、それに対しては如何お考えなのでしょうか?」
「我が友であるミドデルスを始め、高潔な魂の血脈は誰一人としてクローマ王国の再興を望まなかった。それは事実である。但し、高潔な魂の兄弟であったミダス・ナリス・レクリアの者共の行いに心を痛めておったのも事実である。故に我らの先人は、高潔な魂の墓前に誓約したのだ。“我依り数えてアッバースの五代目の王に告げる! 高潔な魂の想いが兄弟に届いていないならば、その時はクローマ王国の再興を我が子孫に託す!”と。そして、我はアッバース王国第7代国王である。先人の誓いを我が破る訳にはいかない。これが我の答えだ」
「はっ、先人の英霊の誓約であることは承知しました。今回の行いが正義の剣であるならば、その正義に敵対した者には、如何対処するおつもりですか? 西方三国のことではなく、エルブリタニアの皇子のことです」
「確かにこの度の件は、我が国の正義の剣である。しかし、再興したクローマ王国からエルブリタニア帝国の第3皇子に付いては不可抗力の為、全てクローマ王国の責に依り不問となっている」
「クローマ王国はそれでいいのでしょう。但し、今回の協力国の西方諸国連合である6カ国は如何なのでしょうか? たった十数人に業と生かされたと揶揄された西方諸国は、納得されているのでしょうか?」
ああ、嫌だ、嫌だ! 損な役回りだ。
西方の信者に対する建前もあり教皇は我に、“正義の誓い”の行使を命じられた。
只、話の落とし処を間違えるとアッバース王国とエルブリタニア帝国との大戦に為るは必定である。
しかし、正義を名乗りその剣を振るったのだ。
正義を押し通すなら、曇りが無いのならば、エルブリタニアの皇子を処断しなければなるまい。
さて、ハミルクリニカ陛下は如何するつもりであろうか...。
「ふむ、確かに。我が国に協力した国が不服を申すのであれば、クローマの申し出も考慮の上で、正義の剣を振るうのみだ」
ほう、エルブリタニアとの戦いも辞さずか...。
アッバースの“正義の剣”に、一切の曇りなし!
そう教皇猊下に報告してこの件は終わりだ。
「陛下、歓談中失礼致します! 緊急事態でございます!」
うん? 宰相のカルマート殿ではないか、何を慌てておるのだ?
「ダロス・アジタート卿が、“正義の審判”に依りエルブリタニア帝国第3皇子ビクトリアス・エルブリタニアの麾下に入ると、陛下に挨拶に来ておりますぞ!」
え、ダロス・アジタート卿? アッバースの巨神騎士団《タイタン》団長の?
へ、エルブリタニア帝国! 第3皇子、...ビクトリアス・エルブリタニア殿下?
正気か? アッバースの騎士団長を引き抜いたのか?
え、“正義の審判”? では、アジタート殿は負けたのか?
巨神と言われる、あのアジタート殿に勝ったのか?
ビクトリアス・エルブリタニア、...化物か!
否、何たる理不尽な奴だ!
私は憤激に染まるハミルクリニカ陛下と蒼白なカルマート宰相を見比べながら、不敬にもアッバース王国の行く末を案じた。
西方諸国連合軍約25000を敗走させた第3皇子一行は、たった十数人。
力なき正義は、正義に非ず。
確かアッバースの先人の言葉だったな...。
ふと見た窓の外には、蒼天の空が蒼く蒼く、どこまでも広がっていた。
カリダドの聖騎士だ。
私は教皇猊下の勅命に依り、この度の西方でのクローマ王国の件を調査する為にアッバース王国の王都イブンに来ている。
急遽の訪問となる私を、アッバース王であるハミルクリニカ陛下は寛容にも直ぐに面会をお許しになられた。
「ランスロット卿、久しいな。今回の目的は、クローマ王国の件かな?」
「はっ、お久しぶりです陛下。突然の訪問に対し寛容な対応、誠にありがとう御座います。我ら聖カリダド教国としては、“正義の誓い”に依り隣国アッバースの振るった正義の剣の真偽を確かめるのも務めなれば、何卒広き心を以てお許し下さい」
「ふむ、卿は他の聖騎士達とは違って礼儀を心得ているな。この度の件は、アッバースの先人の英霊が誓約したことを履行したに過ぎん。詳細はカリダドへも通知しておるはずだが?」
確かに通知は来ている。
我が聖カリダド教国とアッバース王国は、隣国である以上に密接な関係にある。
アッバースの先人とカリダド教の教皇との誓約に、両者共にお互いの正義に疑義を持った時には其れを正すべしとある。
聖カリダド教国が創造神を崇拝して出来た教国であり、その創造神が創りし1柱である戦争と武を司る軍神レオを崇拝するジャイアントの国がアッバース王国である。
古の誓約に依り、聖カリダド教国とアッバース王国はお互いの正義を曇らさないようにお互いを誓約で縛った。
それが“正義の誓い”である。
「はっ、確かに。只、クローマ王国再興の王と為るミドデルス・クローマ殿は、今回の正義の剣を望んでおられなかったとか? 高潔な魂の系譜であるミドデルス殿の意に反してのこの度の行い、それに対しては如何お考えなのでしょうか?」
「我が友であるミドデルスを始め、高潔な魂の血脈は誰一人としてクローマ王国の再興を望まなかった。それは事実である。但し、高潔な魂の兄弟であったミダス・ナリス・レクリアの者共の行いに心を痛めておったのも事実である。故に我らの先人は、高潔な魂の墓前に誓約したのだ。“我依り数えてアッバースの五代目の王に告げる! 高潔な魂の想いが兄弟に届いていないならば、その時はクローマ王国の再興を我が子孫に託す!”と。そして、我はアッバース王国第7代国王である。先人の誓いを我が破る訳にはいかない。これが我の答えだ」
「はっ、先人の英霊の誓約であることは承知しました。今回の行いが正義の剣であるならば、その正義に敵対した者には、如何対処するおつもりですか? 西方三国のことではなく、エルブリタニアの皇子のことです」
「確かにこの度の件は、我が国の正義の剣である。しかし、再興したクローマ王国からエルブリタニア帝国の第3皇子に付いては不可抗力の為、全てクローマ王国の責に依り不問となっている」
「クローマ王国はそれでいいのでしょう。但し、今回の協力国の西方諸国連合である6カ国は如何なのでしょうか? たった十数人に業と生かされたと揶揄された西方諸国は、納得されているのでしょうか?」
ああ、嫌だ、嫌だ! 損な役回りだ。
西方の信者に対する建前もあり教皇は我に、“正義の誓い”の行使を命じられた。
只、話の落とし処を間違えるとアッバース王国とエルブリタニア帝国との大戦に為るは必定である。
しかし、正義を名乗りその剣を振るったのだ。
正義を押し通すなら、曇りが無いのならば、エルブリタニアの皇子を処断しなければなるまい。
さて、ハミルクリニカ陛下は如何するつもりであろうか...。
「ふむ、確かに。我が国に協力した国が不服を申すのであれば、クローマの申し出も考慮の上で、正義の剣を振るうのみだ」
ほう、エルブリタニアとの戦いも辞さずか...。
アッバースの“正義の剣”に、一切の曇りなし!
そう教皇猊下に報告してこの件は終わりだ。
「陛下、歓談中失礼致します! 緊急事態でございます!」
うん? 宰相のカルマート殿ではないか、何を慌てておるのだ?
「ダロス・アジタート卿が、“正義の審判”に依りエルブリタニア帝国第3皇子ビクトリアス・エルブリタニアの麾下に入ると、陛下に挨拶に来ておりますぞ!」
え、ダロス・アジタート卿? アッバースの巨神騎士団《タイタン》団長の?
へ、エルブリタニア帝国! 第3皇子、...ビクトリアス・エルブリタニア殿下?
正気か? アッバースの騎士団長を引き抜いたのか?
え、“正義の審判”? では、アジタート殿は負けたのか?
巨神と言われる、あのアジタート殿に勝ったのか?
ビクトリアス・エルブリタニア、...化物か!
否、何たる理不尽な奴だ!
私は憤激に染まるハミルクリニカ陛下と蒼白なカルマート宰相を見比べながら、不敬にもアッバース王国の行く末を案じた。
西方諸国連合軍約25000を敗走させた第3皇子一行は、たった十数人。
力なき正義は、正義に非ず。
確かアッバースの先人の言葉だったな...。
ふと見た窓の外には、蒼天の空が蒼く蒼く、どこまでも広がっていた。