第45話 獣王

文字数 1,405文字

 我はガンジャ・オルスカ。

 オルスカ王国の国王である。

 オルスカ王国は自然を愛している。

 故に自然を余り損なわないように発展すると言う、自然と発展のバランスを上手く取りながら国を富ますのが、我の王としての責務と手腕だ。
 
 自然淘汰が体現される大自然。

 弱いものは強きものの血となり、肉となり、

の糧となる。

 このアルグリア大陸と言う大自然を生き残る為、日々我が(オルスカ)は強さを、野生の(したた)かさを、本能の力強さを求め続ける。

 大自然では歩みを止めたものは死にいく運命なのだから...我は強く、強かに、群れ(オルスカ王国)を統率せねばならぬのだ。


「獣王様、闘技会の準備整いました。間もなく開催時刻です!」

 我は頷き、闘技会場である闘技場、自然淘汰(ナチュラルセレクション)の廊下を進む。この闘技会は年一回行われるオルスカ王国の恒例行事である。

 “強き者が勝ち残るのではない、勝ち残った者が強いのだ”と我がオルスカ王国建国の父ゲレーラ・オルスカの時代より行われるこの行事には、国内の強者は基より、国外の強者も参加する。故に他国の者に栄え有るオルスカ闘技会優勝の栄誉を渡すことは赦されない。


「な、何だ? 何が起こっているのだ?」

「ええい、誰かあの小僧を倒せる者はおらんのか!」

 我の側近達が右往左往しておる。

 確かにオルスカ闘技会の長い歴史に於いて、例を見ない現象が起こっている。

 他国のそれもエルフの少年が、我が国が誇る強者を、他国が誇る強者を次々と撃破していることは驚愕すべき事実である。

 だが、見る者が見ればそれは必然であると解る。

 動きの格が違う、動作の緻密さが違う、胆力の強さが違う。

「グッ、ガァハッ!」

 昨年の闘技会優勝者があっさり負けた。

 闘技場、自然淘汰(ナチュラルセレクション)がこんなに鎮まり、静かに固まるとは...面白い! 面白いぞ! 我の野生の血が滾る!


「小僧! ここまで良く勝ち残った! だが俺は最強の武を受け継ぐレイ・ホウセン! ......」

 ほう、レイ・ホウセン。

 フューダー大王国の大将軍ガイ・ホウセンの馬鹿息子か。

 フューダー大王国の大王ベルセルト・フューダーに面と向かって喧嘩を吹っ掛けた大馬鹿者か。

 父の威光で国外追放処分で生き長らえた親不孝者と名高い脳筋。

 ふむ、面白い。

 フューダーの武の継承者を謳うあの脳筋に勝てるかな? エルフの少年よ。

 我は決勝戦の高揚感に包まれる。


「グッ、ガァハッ!」

 既視感を感じた。

 武の継承者はあっさり負けた。

 え、マジか! あの脳筋は頭はヤバい奴だが、武力は本物だぞ! 

 一体何者何だ? しかし、何者であっても闘技会優勝者と手合わせするのがオルスカ闘技会の伝統だ。

 我は獣王! 我こそがオルスカ最強の野生だ! 

 我が胸を貸してやろう! いざ勝負だ!


「グッ、ガァハッ!」

 え、我はあっさり負けた......。

 我は消え行く意識の中で、只1つの思いが木霊(リフレイン)する。

『やべぇ、母ちゃんに怒られる......』

『やべぇ、母ちゃんに......』

『やべぇ、母......』

『や......』

 プチン。ツーーーーーーーーーー。
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