第129話 シルフィの奴隷少女

文字数 1,759文字

 私はララミィ・ベル。

 奴隷です。

 シルフィの国に奴隷なんて居るのかって?

 居るんですよ、現実は厳しいのです。

 私も最初から奴隷だった訳では、勿論ありません。

 飢饉で、税金を国に納められない為に、仕方なく親に売り払われたのです。

 仕方ありません。

 何故なら私が一番上のお姉ちゃんだからです。

 間違っても弟妹を奴隷に出す訳に行きませんから。

 私を購入したご主人様は、娼館を営んで居られました。

 私も娼館で身を売るのかと、運命を受け入れようと決心しました。

「お前は小間使いに買ったんだ! そんな絶壁な身体では、一部の愛好家しか食指を覚えまい!」

 ところが、ご主人様は私の身体を見ながら、小間使いとして買った。

 勿論、お前の働き次第で待遇は変えてやると言われました。

 それからは真面目に、人が嫌がる仕事も積極的にしました。

 私が、身を粉にして働いていると、娼館の娼婦のお姉様方の嬌声が聞こえます。

 お姉様方も、したくてこの仕事に就いている訳ではないようです。

 私に綺麗な服を与えてくれる心優しいお姉様も居られます。

 でも、私は人目に付かない仕事ならと、汚れても良いように、いつもボロの服を着ていました。

 ある日の朝早くに娼館の扉を叩く音が聞こえました。

 昨夜は娼館のオーナーであるご主人様の生誕祭で、皆酔い潰れていました。

 仕方ない、小間使いならばボロを着ていても、娼館の品位は落ちないだろうと、私は扉を開けました。

 するとそこには、エルフの可愛い少年が、頭の上に黒い子猫を乗せて立っていました。

 立派な出で立ちと立ち振る舞いに、貴族の方だと即座に解りました。

「おはようございます。営業時間は終わっていますので、今は対応出来る者がいないのです。申し訳ありませんが、営業時間内にお越し頂けますか? 失礼します」

 私はそう言って扉を閉めようとしましたが、事もあろうに少年は私に用事があると言います。

 私は小間使いで、娼婦ではない事を伝え、再び扉を閉めようとすると、少年は耳を疑う言葉を発したのです。

「違う、違う! そう言う意味じゃないんだ! 僕は君を買いたいんだ!」

 はぁ? 一体何が違うと言うのですか?

 私を買いたいって、そう言う事じゃないのですか?

 私はこの少年の良いように呆れてしまいました。

 何とかこの少年に、お引き取り願おうと思っていると、執事長が何事かと割って入って下さいました。

 ふー、これで仕事に戻れると思っていた私の耳に、再び耳を疑う少年の言葉が聞こえます。

「初めまして、朝早くに申し訳ないです。僕はビクトリアスと言います。彼女を僕の仲間に勧誘に来たのですが、見たところ奴隷の様子。良かったら彼女を買わせて貰えると有り難いんだけど、出来たら話だけでも聞いてくれませんか? 」

 そして、ハンカチを執事長に渡しました。

 そのハンカチを受け取り見た執事長の顔色は、驚愕に染まり、身体はブルブルと震え出しました。

 大丈夫ですか執事長? お加減が悪いのですか?

「失礼いたしました。申し訳ございませんが、現在対応出来る者が居りませんが、私の独断でお話だけでもお伺いさせて頂きます。こちらへどうぞ!」

 え、入れちゃうんですか執事長?

「昨日は我が主の生誕祭でして、何分片づいておりませんが、何卒お許し下さいませ!」

 え、執事長が最大級の賓客を迎えるような対応をされています。

 こんな執事長は見たことがありません。

 王族の人が来ても、普段の態度を崩さない執事長が、顔色青く緊張した面持ちで対応をされていました。

 もしかして、王族の方よりも上の身分の方なのかしら? でも王族の上って、何があったかしら?

 そんな風に呆けていた私を、執事長は現実に連れ戻す言葉を言われました。

「ララァ、仕事着から、普段着に着替えて【応接室】へ来なさい!」

 ええええ~! 普段は【貴賓室】と呼ぶ部屋を【応接室】、......この言葉は娼館の隠語で、『緊急事態発生! 至急ご主人様に伝え、指示を仰げ!』です!

 私はご主人様に、この事を伝える為に、駆け足で急ぎました。
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