第76話 災厄の友

文字数 1,430文字

 俺はエクリプス。

 漆黒の獣だ。

 巷では十の災厄(アンタッチャブル)の一角、《黒獣》と呼ばれている。


『なあビズ、エリクサーとか色々準備しているけど何をするつもりなんだ?』

 我はビズが何をしようとしているのか、ふと聞いてみた。

 ビズは神妙な面持ちで事情を説明した。

 ふむふむ、ビズの妹が急死する未来を変えるのが目的なんだ。

 ふ~ん、ビズが物知りさんだとは知っていたが、未来まで知っているとは流石我が友だ。

 ビズと一緒にダマスクローズと言う街の一郭にある家を強襲した。

 壁越しに気配だけで敵を倒したビズは、拘束されていた女の人に事情を聞いた後に何かのお守りを預かっていた。

 その女の人は身籠もっていたので、街の宿屋で錬金術の爺さんと一緒に安静にして貰っている。

 
 そして、ダマスクローズ近くの街道で戦闘中の集団を俺達は強襲した。

 ビズはその場所を最初から知っていたようで、俺達に状況の説明と行動の指示をした後で、俺を頭に乗せたままその集団に躍り込んだ。

 ビズは真っ直ぐに妹の元へ向かう。

 ビズは日頃から自分の力を押さえて行動している。

 俺が不思議に思って尋ねると、修行の一環だと言っていた。

 そんなビズの解放された力の一端が弾ける。

 妹に迫る剣を根元から絶ち切ったビズは、妹に遅くなったごめんと謝っていた。

 そして、俺に妹を頼むと言った。

 おおよ! ビズの願いは俺の願いだ。

 ビズの妹は俺が護る。


「僕の妹をよくも泣かしたな! 僕はビクトリアス・エルブリタニア! お前達を討ち滅ぼす者だ!」

 そう敵に宣言したビズに、血塗れの男が淡々と襲いかかる。

 殺気を放ちながら、殺気を消した一撃を繰り出す男に俺は感心し、殺気を囮に必殺の一撃を加えるその男の技に俺は賞賛を送る。

 だが、対峙しているビズはその攻撃すらそよ風の如く交わす。

 その件の男は淡々とビズに攻撃を交わされようと攻撃をし続ける。

 ビズの妹が、傍らある女の亡骸を抱きしめながらもビズを目で追っている。

「あれが、私の兄様...。ビクトリアス兄様なのですか...」

 そう言えばビズも妹には一回も会ったことがないと言っていた。

 そして、淡々と攻撃する男の攻撃もそろそろ限界を迎えようとしていた。

「グッ!」

 ビズの一撃を受けてその男は崩れ落ちた。

 しかし、その男は止まらない。

 這いずりながらもビズに向かっていく。

 その男には死を覚悟の上で、それでも諦めない気概があった。

 その男は剣を杖にして尚、ビズに立ち向かおうとする。

「お前は、一体何者なんだ?」

 その男は、問う気も無く何気なくそう呟いたようだった。

 そう呟いた男にビズは、何故か恥ずかしそうにビシッとポーズを決めて、いつものお決まりの言葉を言い放つ!

「僕が“何者”だって? 僕はサミュエル・ガトーお前の願いを叶える者だ!」

 ビズは男に身籠もった女から預かったお守りを翳した。

 ビズと対峙する男は驚愕の表情でそれを凝視する。

「奥さんは僕が安全な場所に匿っているので、安心して下さい」

 ビズはその男にお守りを渡した。

 その男は、そのお守りを慈しむように胸に抱き静かに涙を流していた。


 俺はエクリプス。

 漆黒の獣だ。

 俺の友は、何故か他者の願いを叶える変わった奴だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み