第143話 侍女は、主に厳しいようです!

文字数 1,115文字

「殿下、私はごく普通のシルフィです、……よ?」

 可愛らしく首を傾けながら、僕を見つめる侍女であるララミィ・ベルの目が怖い。

 ゴクリ、……

 何を怒っているんだろうか?

『はぁ~、ビズ、決まってるわよ! 彼女は、何も知らないのよ? 其れを行き成り、剣の稽古だって言われても、納得しようがないわよ?』

 そうかな、メアリーも、館のメイドは皆、かなりの武芸の使い手だったんだけど?

『エルバビロニア帝国でも、彼処までの練度のメイドは、ビズの館だけだと思うけど?(ビズは、自分の紅玉の瞳の帝国の評価を知らない。だから暢気なことを言ってるけど、過剰な警戒を帝国はしているのよね……)』

 本当に、此の子が【破壊神】と呼ばれる武神なの、シス?

『ビズ、あなたも、ゲームシステムで確認したでしょ? 間違いなく彼女は破壊神と呼ばれる武の神と為る逸材なのよ! 良い、ビズ! あなたが育てるのよ、解った?』

 う、うん! 解ったよ、シス!

 で、でも。目が怖いんだけど、此の子。



「其処、身体が開いてる! 脇を締めて、剣ではなく身体全体の動きを意識して!」

「は、はい!」

 僕の指導で、ララァはメイドにしては、剣の腕が立つかな? くらいまでは上達したけど。

 ララァが、シスとステータス表示が言うほど、凄い武人に為るとは思えないな~。



『なあ、ビズ? ララァって、左利きじゃないのか?』

 えっ? 左利き?

 エクスが突然、変なことを言い始めた。

『どうしてそう思ったの、エクス?』

『いや、……見れば解る、……だろ? ビズ、解らないのか?』

『ええ~、見れば解るものなんだ? 解らないよ~、エクス~?』

 僕はエクスの指摘に、アッサリと白旗を揚げた。

 だって解らないものは、解らないよ!



『なっ! 言った通りだろ、ビズ!』

 エクスが、ドヤ声で僕に言う。

 僕の頭の上で、寛ぐエクスの歓声が、心地良い。

 何故なら、ララァの動きが全くの別物に為っていたからだ。

 す、凄い! たった数日で、うちの館のメイド達よりも強くなった。

 僕は唖然とするしか無かった。



「殿下、困ります! 殿下が確りしないと、私が怠けていると見られます! 駄目です! 論外です! さあ、早く着替えて下さい!」

 僕の侍女は、何故か僕にだけ厳しい。

 他の皆とは、和気藹々なのに、解せない。

 





 十数年後、ララミィ・ベルの名がアルグリア大陸に轟くことと為る。

 彼女こそが、アルグリアの歴史の中で、唯一【破壊神】の異名を持ち、武に愛されて、武神とも呼ばれた侍女なのであった。
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