第31話 黒獣

文字数 1,720文字

 俺はエクリプス。

 漆黒の獣だ。

 巷では十の災厄(アンタッチャブル)の一角、《黒獣》と呼ばれている。

 ふん、気に入らん。

 全くもって、気に入らん。

 俺は友達が欲しいんだ。

 俺はズッとボッチだ。

 俺の存在する処は、全て漆黒に飲まれる。

 生物も、空気も、色さえも。

 漆黒に染め上げる、それが俺の力だ。

 俺の住むマイホームの名は“漆黒の森”、ふん。

 俺には只の“ボッチの森”だ。

 俺が友達を作ろうとマイホームから出ると、マイホームが拡張する。

 部下は沢山出来たけど、違う、違う、違うんだあああああ! 俺は部下じゃあなくて、友達が欲しいんだよおおおおお!

 俺のマイホームの周りは“深淵の森”と呼ばれ、

? から逃げるように森が拡張し続けてるんだそうだ。

 なんか俺と一緒だ、親近感が湧く。

 そんなボッチな日々を送る俺に朗報が来た。

 部下の話だと、何でもエルフの2人組が深淵の森で暴れ捲ってるらしい。

 おお、久しぶりの訪問者だ。

 それは凄く、凄く、凄く楽しみだ。

 でも、所詮エルフだ。

 過去にもエルフ達が俺を倒しに来たが、何故か突然お亡くなりになった。

 チーンだ。

 そんな日常に飽き飽きしていた俺に吉報が来た。

 例の2人組が、俺のマイホームに土足で上がり込んだと。

 うひょおおおおお、最高だ。

 久しぶりの闘いだ。

 え、何々。

 部下達がボコボコにされてもうヤバい状況だと? ほう、この漆黒の空間で、俺の部下を倒すだと? 面白い、面白い、面白い!

「ぐわぁわわわわわお!」

 俺の咆哮を聞いた部下達は、漆黒の闇に身を潜めた。

 ほほう、コイツらか。

 ふん、面白い。

 ここまで来た祝いで、死に方を叶えてやろう。

『俺はエクリプス。漆黒の獣だ。ここまで来た祝いだ。願い(死に方)を叶えてやろう。八つ裂きにされて死ぬか、漆黒の闇に飲まれて死ぬか、お前達の願い(死に方)は何だ?』

 するとエルフの2人組の小さいチビが俺に向かってこう言いペコリと頭を下げた。

「僕と友達になってくれませんか? お願いします」

 俺はその言葉を聞いた後、意識を無くした。

 そして、1日経って復活した。

 どうやら俺は“友達が出来る喜び”で突然(ショック)死したらしい。

 泣きながら俺の友達が謝っていたが、構わん、構わん、構わん。

 だって“俺達、友達だろう?”

 そして、友は俺を含む古の盟約の獣の1柱、《黄金竜》ともう1柱の番の《禍蛇》の息子だと言う。

 ほう、俺ら盟約の獣に子供が出来るとは。

 驚きだ、驚きしかない。

 友は自分を鍛える為に修行の旅をしているらしい。

 羨ましい、俺は素直に打ち明けた。

 俺は千数百年ズッとボッチだった事。

 俺がマイホームから出るとマイホームが広くなるので悩んでいる事。

 そして、ズッと友達が欲しかった事。

 ああ、俺も友と一緒に旅がしたい事を。

 すると友は俺に向かって屈託なくこう言った。

「なら一緒に旅をしよう」って。

 ふっははははは。

 ありがとう、友よ。

 でもそれは叶わぬ夢だ。

 俺には古の盟約があり、この場所を離れならない。

 そう俺の使命は“マイホーム(漆黒の森)を動かない”事だ。

 そう悲しそうな顔をするな、友よ。

 友の気持ちだけ、ありがたく受け取っておくよ。

 うん? 友がジーと何か難しい顔をしている。

 俺の事で友が悩んでくれる日が来るとは、考えもしなかった。

 そうすると何故か、俺の目から水が落ちる。

 何故か、俺の目から水が流れる。

 何故か、俺の目には俺の為に同じように目から水を流している友が映る? 友よ、一体お前は何者なのだ? 俺に初めて湧いた感情が友に尋ねる。


「僕が“何者”だって? 僕はエクス、お前の願いを叶える者だ!」

 何故か恥ずかしそうにポーズを決め、そう言う友を見て俺はブッと笑いを吹き出した。

 そして、俺は初めての友と一緒に、初めての旅に出たのだった。
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