第2話 ティータイム

文字数 1,242文字

 それなのに、ときに大胆になる藍のことが、翔は心配でならない。
「おい」
 かがみながら、藍の手を強く引くと、藍は、振り返りながら、ぺたんと床に座り込んだ。小さな乳房がぷるんと揺れる。
 翔は魅入られたように、その薔薇色の先端に手を伸ばす。藍は、自ら、それを翔の手に押しつけるようにしながら、両腕を翔の首に回して覆いかぶさって来た。
 
 
 翔と藍は、服装を整え、少し時間をずらして一階に下りて行った。毎日、午後には、二人そろってお茶を飲むことが習慣なのだ。
 その場所は、季節や天候によって変わる。朝から雨が降り、肌寒い今日は、暖炉があるリビングルームにお茶の用意がしてあった。
 
 翔が部屋に入って行くと、すでに藍が、背筋を伸ばしてソファに腰かけていた。背中の真ん中ほどまである髪は、櫛が通って、つややかに波打ち、ブルーのワンピースは、喉元まできっちりとボタンが留められている。
 その姿は穢れを知らない聖女そのもので、さっきまでの淫らな振る舞いが嘘のようだ。
 翔が藍の隣に腰を下ろすと、部屋の隅に控えていた久美が、静かにテーブルに近づき、無駄のない手つきで紅茶を淹れ始めた。
 
 今日のスイーツは、焼きたてのシフォンケーキだ。
「素敵!」
 藍が歓声を上げる横で、翔は顔をしかめる。ケーキに添えられた、たっぷりのホイップクリームには、ブルーベリーのソースがかかっている。
「久美、僕はホイップクリームはいらないって、いつも言っているだろう?」

 翔が抗議すると、久美は、すました顔で言った。
「好き嫌いをなさってはいけませんよ。それに、久美ではなくて『お母さま』です」
「そうよ。好き嫌いばかりしていると、背が伸びないわよ」
 藍がからかうように言う。
「でも、クリームは、私が食べてあげてもいいわよ」
「藍こそ、太っても知らないぞ」


 翔と藍の部屋は、それぞれ洋館の三階にあり、独立したバスルームやトイレを備えている。翔は、自室のバスルームの手前にある洗面台の大きな鏡の前に、裸で立っている。
 明るい色の髪に縁取られた白い顔は、藍とよく似ている。だが、首から下は……。
 細く頼りない手足に、肉の薄い胸から腹。そして、そこだけ薄黒く翳った部分と、明らかに藍とは違う形の……。
 
 最近の藍は、細いながら、全身に丸みと柔らかさを帯びて来ている。少し前まで、ほとんど扁平に近かった胸も、今では、体の動きに合わせてささやかに揺れるようになり、翔の手のひらを押し返すほどの弾力を持ち始めている。
 今のところ、かろうじて翔のほうが背が高いけれど、そのうち抜かされてしまうかもしれない。
 
 
 秘密の遊びにも、どちらかというと藍のほうが積極的だ。藍の肌の感触や、一つになったときの感じはたまらなく素敵だけれど、それをするたび、もしもこの姿を増永や久美に見られたらと、翔は気が気ではない。
 それなのに藍は、可愛らしい声ですすり泣きながら、翔にしがみついて来るのだ。藍の中は、熱くたぎっていて、いつしか翔も激流に飲み込まれてしまう……。
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