第25話 保健室
文字数 1,092文字
今日の授業は、体育館でバスケットボールの試合だ。球技は得意ではないので、コートの中では、いつもチームメイトの邪魔にならないように、適当にうろうろして時間をやり過ごす。
初めから、試合に参加しようとか、チームに貢献しようなどとは思っていない。翔にやる気がないのは、誰の目にも明らかなので、ボールが回って来ることもない。
だが、今日は注意力が散漫になっていたようだ。ぼんやりしていたせいで、ボールを奪い合って揉み合う集団に巻き込まれてしまった。
あっと思った次の瞬間、誰かの肘がみぞおちに入った。息が出来なくなって、みぞおちを押さえてかがみ込む。
そんな翔を置き去りにして、ボールとともに、集団が離れて行く。
「増永!」
名前を呼ぶ声とともに、誰かに腕を引かれたが、視界がぐらりと揺れたかと思うと、すぐに暗転した。
目を覚ますと、ベッドに横になっていた。すぐに、保健室だと気づく。ベッドの横に藤崎が座っていて、翔を見下ろしている。
「気がついたか」
藤崎が、心配そうに、翔の顔をのぞき込んで言った。だが、寝顔を見られていたのかと思うと、気まずさといら立ちで、すぐに言葉が出ない。
思わず目をそらした翔に、藤崎がたたみかける。
「気分はどうだ? どこか痛むか?」
彼は、純粋に心配してくれているようで、少し申し訳ない気持ちになる。
「大丈夫だよ。ありがとう」
「……そうか」
藤崎が、かすかに微笑んだ。
「これ、持って来といたけど、よかったか?」
そう言って藤崎は、ベッドサイドのワゴンから、翔の鞄と畳まれた制服を取り、ベッドの上に置いた。そう言えば、藤崎は制服に着替えている。
「今、何時?」
「あぁ」
藤崎が、腕時計を見る。
「三時半だよ。さっき六時間目が終わったところだ」
どうやら、午後の授業の間中、眠りこけていたらしい。翔は、あわてて上掛けをはねのけた。
「帰らないと!」
増永は、すでに校門の外に車を着けて待っていることだろう。
「おい、そんなに急がなくてもいいだろ」
藤崎は、体操着を脱ぎ捨てて、ワイシャツを羽織る翔を見て、呆れたように言う。
「でも、増……いや、父親が待っているから」
「今どき父親が毎日車で送り迎えするなんて、お前んち、恐ろしく過保護だよな」
今さら、どう思われようがかまわない。翔は、無言でワイシャツのボタンを留める。
だが、藤崎が言った。
「なんなら、俺が親父さんに言って来てやろうか? お前が体育の時間に……」
「やめてくれ!」
思わず強い口調で言ってしまい、はっとして、翔は藤崎の顔を見た。藤崎は、目を見開いて、翔を見つめ返す。
「あ……ごめん」
「いや……」
初めから、試合に参加しようとか、チームに貢献しようなどとは思っていない。翔にやる気がないのは、誰の目にも明らかなので、ボールが回って来ることもない。
だが、今日は注意力が散漫になっていたようだ。ぼんやりしていたせいで、ボールを奪い合って揉み合う集団に巻き込まれてしまった。
あっと思った次の瞬間、誰かの肘がみぞおちに入った。息が出来なくなって、みぞおちを押さえてかがみ込む。
そんな翔を置き去りにして、ボールとともに、集団が離れて行く。
「増永!」
名前を呼ぶ声とともに、誰かに腕を引かれたが、視界がぐらりと揺れたかと思うと、すぐに暗転した。
目を覚ますと、ベッドに横になっていた。すぐに、保健室だと気づく。ベッドの横に藤崎が座っていて、翔を見下ろしている。
「気がついたか」
藤崎が、心配そうに、翔の顔をのぞき込んで言った。だが、寝顔を見られていたのかと思うと、気まずさといら立ちで、すぐに言葉が出ない。
思わず目をそらした翔に、藤崎がたたみかける。
「気分はどうだ? どこか痛むか?」
彼は、純粋に心配してくれているようで、少し申し訳ない気持ちになる。
「大丈夫だよ。ありがとう」
「……そうか」
藤崎が、かすかに微笑んだ。
「これ、持って来といたけど、よかったか?」
そう言って藤崎は、ベッドサイドのワゴンから、翔の鞄と畳まれた制服を取り、ベッドの上に置いた。そう言えば、藤崎は制服に着替えている。
「今、何時?」
「あぁ」
藤崎が、腕時計を見る。
「三時半だよ。さっき六時間目が終わったところだ」
どうやら、午後の授業の間中、眠りこけていたらしい。翔は、あわてて上掛けをはねのけた。
「帰らないと!」
増永は、すでに校門の外に車を着けて待っていることだろう。
「おい、そんなに急がなくてもいいだろ」
藤崎は、体操着を脱ぎ捨てて、ワイシャツを羽織る翔を見て、呆れたように言う。
「でも、増……いや、父親が待っているから」
「今どき父親が毎日車で送り迎えするなんて、お前んち、恐ろしく過保護だよな」
今さら、どう思われようがかまわない。翔は、無言でワイシャツのボタンを留める。
だが、藤崎が言った。
「なんなら、俺が親父さんに言って来てやろうか? お前が体育の時間に……」
「やめてくれ!」
思わず強い口調で言ってしまい、はっとして、翔は藤崎の顔を見た。藤崎は、目を見開いて、翔を見つめ返す。
「あ……ごめん」
「いや……」