第39話 赤面

文字数 743文字

 シャツを着て、再び横になる。
「今日はこのまま、ゆっくりお休みになってください。後ほどお食事をお持ちします」
 そろそろ昼が近いようだ。そう言えば、今日はまだ、何も食べていない。
 久美が、横にいる二人に言った。
「お二人も、こちらで召し上がりますか?」
 藍が答える。
「そうね。そうしてちょうだい」

 久美が出て行くと、藍が、不意に涙ぐんで言った。
「よかった……。翔、心配したのよ。きっと帰って来るって信じていたけど、出て行った理由がわからなかったから、とても不安だったわ」
「ごめん……」
「翔がいないって聞いて、一瞬、拉致されたのかと思ってぞっとしたけど、増永に、翔が一人で出て行くところが監視カメラに映っていたって聞いて」

「あ……」
 迂闊だった。カメラの存在などすっかり忘れていた。
「増永も、まさか怪我をしている翔が、ゲートの鍵を探して出て行くなんて思っていなかったんでしょうね。管理室に鍵をかけなかったのは、自分の落ち度だって言っていたわ」
 藍が、ふっと笑う。
「でも、藤崎くん、いえ、基樹くんを見て、翔がそこまでして会いに行った理由がわかった気がするわ」

 なんだか、急に恥ずかしくなって頬が熱くなったが、あるいは、ただ単に熱があるせいかもしれない。ちらりと見ると、基樹も面食らったような顔をしている。
「基樹くんが、翔をここまで背負って運んでくれたのよ。前に学校でも、そんなことがあったんですってね」
 あの頃は、藍が臥せっていて、しばらく顔も合わせていなかった。
 
 藍が、うっとりしたように言う。
「優しくて頼りがいがあって、そんなふうにされたら、私だって好きになっちゃうわ」
「おい、やめてくれよ」
 そう言う基樹の顔が、見る間に赤くなった。藍が笑い声を上げる。
「何よ、照れなくてもいいじゃない」
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