第107話 食事

文字数 735文字

 真佐が食事を運んで来てくれた。
「有り合わせのもので作ったから、お口に合うかどうかわからないけれど」
「いえ。ありがとうございます」
 料理を見た途端、空腹を感じた。今はもう、正午をずいぶん過ぎているが、昨日の夜に食べて以来、何も口にしていないのだ。
 
 真佐が出してくれたのは、ご飯に味噌汁、卵焼き、青菜の煮びたしといった和食で、普段なかなか食べる機会がないものだ。久美が作ってくれるのは洋食がほとんどで、多分、藍たちの年齢に合わせてくれているのだろう。
 だが、食べてみると、とてもおいしくて、今朝はあんなに苦しかったというのに、すべて平らげてしまった。それを見て、真佐が微笑む。
「その様子なら、もう心配ないわね」

 それから真佐は、表情を引き締めて言った。
「ところで、これからのことだけれど……」
 藍も、手にしていた緑茶の湯飲みを置いて、真佐の顔を見つめる。
「あなたは、もちろん、お家に帰りたいと思っているでしょうね」
「それは、まぁ」

 真佐は、視線を落とす。
「でも、こんな大それたことをした陸人は、ただでは済まないでしょうね。主流派も反対派も欺いたんだから、どちらに捕まっても厳しい制裁を受けることになるでしょう。
 この期に及んで、こんなことをお願いするのはおこがましいけれど、あの子を助けることが出来るのは、藍さん、あなたしかいないの」
 最後の言葉とともに、真っ直ぐに藍を見つめる。
 
 たしかに、真佐の言う通りかもしれないが、これは陸人が勝手にしたことであって、藍は被害者なのだ。
 藍は思う。私は、無条件にあなたの言い分を飲み込むほど、お人好しじゃないわ。その前に、やるべきことがある。
「陸人さんと、話をさせてください」
 真佐はうなずいた。
「わかったわ。今、呼んで来ます」
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