第118話 陸人
文字数 872文字
今では藍の部屋となった、最初に運び込まれた病室から母屋に行くと、陸人が料理をしているところだった。夕食の支度をしているのだ。
足音に、陸人が振り向いた。
「藍さん、どうしました? おばあちゃんなら二階ですけど」
「うぅん、別に用事はないわ」
「はぁ……」
陸人は、止めていた手を動かし始める。
藍は、そばに行って陸人の手元をのぞく。
「今日のおかずは何?」
陸人は、近づく藍にたじろいだように、半歩、脇によける。
「あ……と、チキンソテーのトマトソースがけと、温野菜のサラダです」
「おいしそうね」
藍が笑いかけると、陸人は恥ずかしそうに首をすくめた。
「はぁ」
スナップエンドウの筋を取るのを、じっと見ていると、陸人が言った。
「あの」
「なぁに?」
藍は、背の高い陸人の顔を見上げる。
「なんか、見ていられると、やりにくいっていうか……」
「あら、迷惑?」
「い、いえ、そんなことは」
そこで藍は、はたと思いつく。
「そうよね、ただ見ているだけなんて、よくないわね。何か手伝えることはある?」
すると陸人が、全身でこちらに向き直って言った。
「そんな、とんでもない。藍さんに、そんなことをしていただくわけにはいきません!」
陸人の剣幕に気おされながらも、藍は言い返す。
「大げさね。せっかくだから、私も何かやってみたいと思っただけよ」
「はぁ、すいません」
「謝らなくていいわよ」
なんだか調子が狂ってしまう。今まで、教団の未来を担うだのなんだのと言われて生きて来たわりには、増永たちに厳しく管理され、人と接することもほとんどなかったので、こんなふうに、へりくだった態度を取られた経験がないのだ。
陸人とも、翔や基樹のように気が置けない関係になりたいと思うのだが、なかなか難しいようだ。陸人がぺこぺこするので、そんなつもりはないのに、つい偉そうな口調になってしまう。
「あの……」
陸人が、おずおずと話しかけて来る。
「藍さんは、料理は?」
「やったことないわ。いつも久美が作ってくれたし、やりたいと思ったこともなかったの」
「じゃあ、野菜を切ってみますか?」
「やりたいわ!」
足音に、陸人が振り向いた。
「藍さん、どうしました? おばあちゃんなら二階ですけど」
「うぅん、別に用事はないわ」
「はぁ……」
陸人は、止めていた手を動かし始める。
藍は、そばに行って陸人の手元をのぞく。
「今日のおかずは何?」
陸人は、近づく藍にたじろいだように、半歩、脇によける。
「あ……と、チキンソテーのトマトソースがけと、温野菜のサラダです」
「おいしそうね」
藍が笑いかけると、陸人は恥ずかしそうに首をすくめた。
「はぁ」
スナップエンドウの筋を取るのを、じっと見ていると、陸人が言った。
「あの」
「なぁに?」
藍は、背の高い陸人の顔を見上げる。
「なんか、見ていられると、やりにくいっていうか……」
「あら、迷惑?」
「い、いえ、そんなことは」
そこで藍は、はたと思いつく。
「そうよね、ただ見ているだけなんて、よくないわね。何か手伝えることはある?」
すると陸人が、全身でこちらに向き直って言った。
「そんな、とんでもない。藍さんに、そんなことをしていただくわけにはいきません!」
陸人の剣幕に気おされながらも、藍は言い返す。
「大げさね。せっかくだから、私も何かやってみたいと思っただけよ」
「はぁ、すいません」
「謝らなくていいわよ」
なんだか調子が狂ってしまう。今まで、教団の未来を担うだのなんだのと言われて生きて来たわりには、増永たちに厳しく管理され、人と接することもほとんどなかったので、こんなふうに、へりくだった態度を取られた経験がないのだ。
陸人とも、翔や基樹のように気が置けない関係になりたいと思うのだが、なかなか難しいようだ。陸人がぺこぺこするので、そんなつもりはないのに、つい偉そうな口調になってしまう。
「あの……」
陸人が、おずおずと話しかけて来る。
「藍さんは、料理は?」
「やったことないわ。いつも久美が作ってくれたし、やりたいと思ったこともなかったの」
「じゃあ、野菜を切ってみますか?」
「やりたいわ!」