第176話 母親似
文字数 1,211文字
ガラス越しに、ぼんやりと空を眺めていると、ドアをノックする音がした。ドアを開けに行くと、立っていた基樹が、にっと笑いながら入って来た。
駅まで保則を送って来たのだ。
ソファに並んで腰かける。
「お父さん、行っちゃったね」
「あぁ」
「別れるとき、寂しかった?」
基樹が笑う。
「子供じゃねぇよ」
「でも、親子だから」
「まぁな。でも、ずっと離れて暮らしていたから、昨日から、ずっと変な感じだったよ」
「お父さんと、たくさん話せた?」
「あぁ。でも、今までも、電話やメッセージでやり取りしていたからな」
「ふぅん」
「事前にいろいろ説明して、教団のこととか俺のこととか、ある程度、理解してもらった状態でここに来たんだよ。みんなの前で、いきなり取り乱されても困るしな」
「そうか……」
「なぁ」
基樹が、翔の頬に触れる。
「翔のこと、親父になんて言ったか気になるか?」
「それは、まぁ……」
「俺は今までずっと、翔がいたから、やって来られたって言ったんだ。翔がいたから、辛いことも寂しいこともなかったし、毎日、すごく楽しかったって」
「あ……」
基樹の言葉に、体が熱くなって、涙が込み上げる。
基樹が、翔の髪をくしゃくしゃとかき回す。
「翔がいるから、今も毎日楽しいし、すごく幸せだ」
こらえ切れずに、両目から、ぼたぼたと涙がしたたり落ちる。基樹は、さらに髪をかき回しながら言う。
「あーあ、また泣かせちまったな」
翔は、あわてて涙をぬぐう。
「ごめん……」
「翔が謝ることないだろ」
そう言ってから、基樹は、ぷっと噴き出した。
「髪、すごいことになってる」
「もう……」
再びこぼれ落ちた涙をぬぐうと、基樹が、両手で髪を直してくれる。
「ごめんごめん」
そう言いながら、まだおかしそうな顔をしている基樹に、翔は言った。
「お父さんと、よく似ているね」
「そうか?」
「うん。目とか、鼻とか、あと、歩き方とか」
「へぇ。自分じゃわからないけどな」
基樹が、しげしげと翔の顔を見る。
「翔たちは、そんなにエディに似ていないな。ハーフなのはともかく、体型とか顔立ちとか」
「僕たちは、母親似なのかも」
初めて会ったとき、グレインも、そう言っていたのではなかったか。
「あぁ。きっとそうだな」
基樹は、納得したように、うんうんとうなずいている。
翔は思う。外見だけでなく、性格も母親に似たのかもしれない。藍の明るさや強さは、グレインの血を引いているような気がするが、自分は違う。
すぐに思い悩んでくよくよしたり、めそめそしたり……。母親がくよくよする性格だったかどうかはわからないが、多分、自分はマイナス面を受け継いでしまったのだ。
もの思いに沈んでいると、基樹がぽつりと言った。
「でも、よかった」
「……え?」
「翔が母親似でよかったよ」
意味がわからず、じっと見つめていると、たまりかねたように、基樹が笑い出した。
「悪いけど、翔がエディにそっくりだったら、キスする気にならねえよ」
駅まで保則を送って来たのだ。
ソファに並んで腰かける。
「お父さん、行っちゃったね」
「あぁ」
「別れるとき、寂しかった?」
基樹が笑う。
「子供じゃねぇよ」
「でも、親子だから」
「まぁな。でも、ずっと離れて暮らしていたから、昨日から、ずっと変な感じだったよ」
「お父さんと、たくさん話せた?」
「あぁ。でも、今までも、電話やメッセージでやり取りしていたからな」
「ふぅん」
「事前にいろいろ説明して、教団のこととか俺のこととか、ある程度、理解してもらった状態でここに来たんだよ。みんなの前で、いきなり取り乱されても困るしな」
「そうか……」
「なぁ」
基樹が、翔の頬に触れる。
「翔のこと、親父になんて言ったか気になるか?」
「それは、まぁ……」
「俺は今までずっと、翔がいたから、やって来られたって言ったんだ。翔がいたから、辛いことも寂しいこともなかったし、毎日、すごく楽しかったって」
「あ……」
基樹の言葉に、体が熱くなって、涙が込み上げる。
基樹が、翔の髪をくしゃくしゃとかき回す。
「翔がいるから、今も毎日楽しいし、すごく幸せだ」
こらえ切れずに、両目から、ぼたぼたと涙がしたたり落ちる。基樹は、さらに髪をかき回しながら言う。
「あーあ、また泣かせちまったな」
翔は、あわてて涙をぬぐう。
「ごめん……」
「翔が謝ることないだろ」
そう言ってから、基樹は、ぷっと噴き出した。
「髪、すごいことになってる」
「もう……」
再びこぼれ落ちた涙をぬぐうと、基樹が、両手で髪を直してくれる。
「ごめんごめん」
そう言いながら、まだおかしそうな顔をしている基樹に、翔は言った。
「お父さんと、よく似ているね」
「そうか?」
「うん。目とか、鼻とか、あと、歩き方とか」
「へぇ。自分じゃわからないけどな」
基樹が、しげしげと翔の顔を見る。
「翔たちは、そんなにエディに似ていないな。ハーフなのはともかく、体型とか顔立ちとか」
「僕たちは、母親似なのかも」
初めて会ったとき、グレインも、そう言っていたのではなかったか。
「あぁ。きっとそうだな」
基樹は、納得したように、うんうんとうなずいている。
翔は思う。外見だけでなく、性格も母親に似たのかもしれない。藍の明るさや強さは、グレインの血を引いているような気がするが、自分は違う。
すぐに思い悩んでくよくよしたり、めそめそしたり……。母親がくよくよする性格だったかどうかはわからないが、多分、自分はマイナス面を受け継いでしまったのだ。
もの思いに沈んでいると、基樹がぽつりと言った。
「でも、よかった」
「……え?」
「翔が母親似でよかったよ」
意味がわからず、じっと見つめていると、たまりかねたように、基樹が笑い出した。
「悪いけど、翔がエディにそっくりだったら、キスする気にならねえよ」