第180話 秘密
文字数 1,062文字
車は、すぐに最初のゲートに着いた。佐渡が、ゲートを開けるために車を降りる。
翔の思考は、増永から、数日前のことに移行する。
翔と藍の視線は、藍の部屋に運び込まれたベビーベッドの中の晴に注がれている。たった今、眠ったところだ。
晴は、藍の性格を受け継いだのか、人懐っこく、いつも機嫌がよく、ほとんど夜泣きもしないという。いつか基樹が、翔たちのことを天使のようだなどと言っていたけれど、翔は、晴こそが本当の天使だと思う。
そのあどけない寝顔を見ているだけで、ふわりと幸せな空気に包まれてしまう。
晴に顔を向けたまま、ふと藍が言った。
「翔だけに、秘密を教えるわ」
「えっ?」
思わず顔を見ると、藍もこちらを見て、いたずらっぽく笑った。
「あのね、私、やっぱり佐渡さんのことが好きみたい」
翔はただ、藍の顔を見つめる。たしかに、最近の二人はいい雰囲気だけれど……。
そもそも、藍が晴を産んで屋敷に帰って来たときから、二人はいい雰囲気だった。藍と晴を守るように寄り添う佐渡の姿は、知らない人が見たら、晴の父親にしか見えなかっただろう。
佐渡が、藍に対して紳士的にふるまうのは、もちろん、任務だからということもあるだろう。だが、それだけではない何かを、確かに翔は感じていた。
「えぇと、それはつまり、付き合っているということ?」
藍は、笑いながら、首を横に振る。
「そうじゃないわ。私が一方的に思っているだけで、佐渡さんには伝えていない。
でも、今のところ、特定の相手はいないって言っていたわ」
「佐渡さんに聞いたの?」
「そうよ」
そんなことを聞いたのならば、佐渡は、藍の気持ちに気づいているのではないか。あるいは、藍は確信犯なのか……。
翔が、よほど複雑な表情をしていたのか、藍が、念を押すように言った。
「ねぇ、これは翔だから話しているのよ」
「うん。もちろん、わかっているよ」
「私、高校を卒業するまでは、勉強と子育てを頑張るわ。それで、卒業するときになっても気持ちが変わらなくて、まだ佐渡さんが一人だったら、そのときには告白しようと思うの」
「そう……」
藍が、上目遣いに翔を見つめる。
「二人だけの秘密よ。基樹くんにも言っちゃ嫌よ」
「言うわけないだろ。僕のこと、信用していないの?」
「信用はしているわ。でも、翔は嘘をつくのが下手だから」
いつか基樹にも、そんなふうに言われたことがあったっけ。
「だから、嘘なんてつかないよ。誰にも言わない」
「そうよね。私と翔の仲だものね」
にっこり笑うと、藍は、翔の腕を取って、翔の肩に頭を預けた。
翔の思考は、増永から、数日前のことに移行する。
翔と藍の視線は、藍の部屋に運び込まれたベビーベッドの中の晴に注がれている。たった今、眠ったところだ。
晴は、藍の性格を受け継いだのか、人懐っこく、いつも機嫌がよく、ほとんど夜泣きもしないという。いつか基樹が、翔たちのことを天使のようだなどと言っていたけれど、翔は、晴こそが本当の天使だと思う。
そのあどけない寝顔を見ているだけで、ふわりと幸せな空気に包まれてしまう。
晴に顔を向けたまま、ふと藍が言った。
「翔だけに、秘密を教えるわ」
「えっ?」
思わず顔を見ると、藍もこちらを見て、いたずらっぽく笑った。
「あのね、私、やっぱり佐渡さんのことが好きみたい」
翔はただ、藍の顔を見つめる。たしかに、最近の二人はいい雰囲気だけれど……。
そもそも、藍が晴を産んで屋敷に帰って来たときから、二人はいい雰囲気だった。藍と晴を守るように寄り添う佐渡の姿は、知らない人が見たら、晴の父親にしか見えなかっただろう。
佐渡が、藍に対して紳士的にふるまうのは、もちろん、任務だからということもあるだろう。だが、それだけではない何かを、確かに翔は感じていた。
「えぇと、それはつまり、付き合っているということ?」
藍は、笑いながら、首を横に振る。
「そうじゃないわ。私が一方的に思っているだけで、佐渡さんには伝えていない。
でも、今のところ、特定の相手はいないって言っていたわ」
「佐渡さんに聞いたの?」
「そうよ」
そんなことを聞いたのならば、佐渡は、藍の気持ちに気づいているのではないか。あるいは、藍は確信犯なのか……。
翔が、よほど複雑な表情をしていたのか、藍が、念を押すように言った。
「ねぇ、これは翔だから話しているのよ」
「うん。もちろん、わかっているよ」
「私、高校を卒業するまでは、勉強と子育てを頑張るわ。それで、卒業するときになっても気持ちが変わらなくて、まだ佐渡さんが一人だったら、そのときには告白しようと思うの」
「そう……」
藍が、上目遣いに翔を見つめる。
「二人だけの秘密よ。基樹くんにも言っちゃ嫌よ」
「言うわけないだろ。僕のこと、信用していないの?」
「信用はしているわ。でも、翔は嘘をつくのが下手だから」
いつか基樹にも、そんなふうに言われたことがあったっけ。
「だから、嘘なんてつかないよ。誰にも言わない」
「そうよね。私と翔の仲だものね」
にっこり笑うと、藍は、翔の腕を取って、翔の肩に頭を預けた。