第78話 景色
文字数 905文字
昼食の後、しっかりと防寒対策をして庭に出た。洋館とは違い、敷地はそれほど広くなく、端から端まで一望することが出来る。
高い塀に囲まれているが、斜面に建っているせいもあって、その外に広がる、晴れた空と、雪を被った山々が遠くまで見渡せる。
「きれいね……」
藍が、景色を眺めながらつぶやいた。日の光に照らされた横顔が美しい。
「この景色を刺繍に出来ないかしら」
「出来るよ。藍の刺繍、とてもきれいだった。まるで風景画のようだよ」
翔がそう言うと、藍が突然こちらを見た。そして、目をきらきらと輝かせながら言う。
「そう言えば、翔は昔、絵を描いていたじゃない」
高校では美術を選択していなかったので、いつの間にか遠ざかっていたが、子供の頃は、よく絵を描いていた。中学の授業で描いた静物画を、教師にほめられたこともあった。
「また描いてみたら?」
「そうだね……」
夕食のとき、さっそく久美に言った。
「画材がほしいんだけど。それに、デジカメも。コンデジでいいんだ。前に持っていたのは、洋館に置いて来てしまったから……」
「あぁ、カメラもいいわね。それなら、プリンターもいるわよ」
藍が微笑む。久美が言った。
「かしこまりました。すぐに手配いたします」
自分はぼんやりしていて、いつも誰かに言われてから気づくのだが、藍に言われて、久しぶりに絵を描いてみたくなた。それに、時間とともに表情を変える景色を撮りたい。
この家に来てから、ようやく何かをやりたいと思えるようになった。
早くも、次の日の午後には、増永が、画材とデジカメ一式を部屋に持って来てくれた。スケッチブックに、水彩絵の具、アクリル絵の具、色鉛筆などの画材と、コンパクトデジカメにプリンターと、その付属品。
「足りないものがあるようでしたら、いつでもお申しつけください。カメラは、もっと本格的なもののほうがよかったのではないですか?」
「うぅん、これで十分だよ。ありがとう」
別に写真を極めたいわけではない。写真をもとに、絵を描こうと思ったのだ。
それに、日記のように、風景や、ちょっとした日常の画像を残しておきたい。そして、いつか基樹がやって来たときに、見てもらいたい……。
高い塀に囲まれているが、斜面に建っているせいもあって、その外に広がる、晴れた空と、雪を被った山々が遠くまで見渡せる。
「きれいね……」
藍が、景色を眺めながらつぶやいた。日の光に照らされた横顔が美しい。
「この景色を刺繍に出来ないかしら」
「出来るよ。藍の刺繍、とてもきれいだった。まるで風景画のようだよ」
翔がそう言うと、藍が突然こちらを見た。そして、目をきらきらと輝かせながら言う。
「そう言えば、翔は昔、絵を描いていたじゃない」
高校では美術を選択していなかったので、いつの間にか遠ざかっていたが、子供の頃は、よく絵を描いていた。中学の授業で描いた静物画を、教師にほめられたこともあった。
「また描いてみたら?」
「そうだね……」
夕食のとき、さっそく久美に言った。
「画材がほしいんだけど。それに、デジカメも。コンデジでいいんだ。前に持っていたのは、洋館に置いて来てしまったから……」
「あぁ、カメラもいいわね。それなら、プリンターもいるわよ」
藍が微笑む。久美が言った。
「かしこまりました。すぐに手配いたします」
自分はぼんやりしていて、いつも誰かに言われてから気づくのだが、藍に言われて、久しぶりに絵を描いてみたくなた。それに、時間とともに表情を変える景色を撮りたい。
この家に来てから、ようやく何かをやりたいと思えるようになった。
早くも、次の日の午後には、増永が、画材とデジカメ一式を部屋に持って来てくれた。スケッチブックに、水彩絵の具、アクリル絵の具、色鉛筆などの画材と、コンパクトデジカメにプリンターと、その付属品。
「足りないものがあるようでしたら、いつでもお申しつけください。カメラは、もっと本格的なもののほうがよかったのではないですか?」
「うぅん、これで十分だよ。ありがとう」
別に写真を極めたいわけではない。写真をもとに、絵を描こうと思ったのだ。
それに、日記のように、風景や、ちょっとした日常の画像を残しておきたい。そして、いつか基樹がやって来たときに、見てもらいたい……。