第127話 久美の話
文字数 776文字
「今回のことは、大変痛ましいことでした。藍さんが乗った救急車を襲ったのは、やはり反対派の者たちでした。
ほかの信者たちとともに麓のログハウスで暮らしていた木崎は、反対派のスパイだったのです。救急車が襲われたとき、おそらく増永さんは……。」
久美は、さらに続ける。
「教団では、木崎が藍さんとともに反対派に合流したものとばかり思っていたのですが、実際には、木崎は反対派をも裏切り、単独で藍さんを連れ去って、今まで監禁していたのです」
そのとき突然、藍が叫んだ。
「違うわ! 監禁なんてされてない!」
その横顔を見ると、藍の目から、涙がこぼれ落ちた。
「私、陸人さんのことを愛していたのよ。お腹の中に、陸人さんの赤ちゃんがいるの」
藍は、両手で顔を覆う。そして、嗚咽を漏らし始めた。
後から、久美の話を聞いたところによれば、病院で検査をした際に、妊娠がわかったのだという。藍が凌辱されたのだと思った久美は、中絶を勧めたが、藍は、泣いて拒んだ。
自分は凌辱などされていないし、陸人とは愛し合っていたと。鮎川先生の子供は流れてしまったが、今度こそ、どうしても愛する人の子供が生みたい。たとえもう、愛する人がこの世にいないとしても、と。
翔が、泣きじゃくる藍を茫然と見つめていると、久美が、藍に声をかけた。
「少しお部屋で休みましょうか。藍さんのお部屋は、藍さんが運ばれて行ったときのままですよ」
久美が、そっと肩に手をかけると、藍は素直に立ち上がり、そのまま抱えられるようにして大広間を後にした。
「驚いたな……」
基樹がつぶやいた。その言葉で、ようやく翔は我に返る。
今聞いた話は、あまりにも衝撃的で、まだ思考が追いつかない。藍の身に、そんなことが起こっていたなんて、まったく想像もしていなかった。
数ヶ月の間、ただ藍の無事だけを祈っていたのだが……。
ほかの信者たちとともに麓のログハウスで暮らしていた木崎は、反対派のスパイだったのです。救急車が襲われたとき、おそらく増永さんは……。」
久美は、さらに続ける。
「教団では、木崎が藍さんとともに反対派に合流したものとばかり思っていたのですが、実際には、木崎は反対派をも裏切り、単独で藍さんを連れ去って、今まで監禁していたのです」
そのとき突然、藍が叫んだ。
「違うわ! 監禁なんてされてない!」
その横顔を見ると、藍の目から、涙がこぼれ落ちた。
「私、陸人さんのことを愛していたのよ。お腹の中に、陸人さんの赤ちゃんがいるの」
藍は、両手で顔を覆う。そして、嗚咽を漏らし始めた。
後から、久美の話を聞いたところによれば、病院で検査をした際に、妊娠がわかったのだという。藍が凌辱されたのだと思った久美は、中絶を勧めたが、藍は、泣いて拒んだ。
自分は凌辱などされていないし、陸人とは愛し合っていたと。鮎川先生の子供は流れてしまったが、今度こそ、どうしても愛する人の子供が生みたい。たとえもう、愛する人がこの世にいないとしても、と。
翔が、泣きじゃくる藍を茫然と見つめていると、久美が、藍に声をかけた。
「少しお部屋で休みましょうか。藍さんのお部屋は、藍さんが運ばれて行ったときのままですよ」
久美が、そっと肩に手をかけると、藍は素直に立ち上がり、そのまま抱えられるようにして大広間を後にした。
「驚いたな……」
基樹がつぶやいた。その言葉で、ようやく翔は我に返る。
今聞いた話は、あまりにも衝撃的で、まだ思考が追いつかない。藍の身に、そんなことが起こっていたなんて、まったく想像もしていなかった。
数ヶ月の間、ただ藍の無事だけを祈っていたのだが……。