第38話 基樹

文字数 714文字

 目を覚ますと、自分の部屋のベッドに横たわっていた。藍が枕の横に腰かけて、翔を見下ろしている。
「藤崎は?」
 問いかけると、藍は微笑んで、後ろを振り向いた。
「藤崎くん」
 やって来た藤崎が、ベッドの脇にしゃがんで言った。
「大丈夫か?」

 藤崎が無事なことにほっとして、翔は、いつの間にか止めていた息を吐いた。藍が、翔の髪を撫でながら言う。
「ここを発つのは明日になったわ。翔の体がこんなだから、無理に動かせないって。
 久美が、発熱したのは、怪我のせいと、精神的なストレスのせいだろうって言っていたわ。翔、大変な目に遭ったんだものね」
 
 藤崎が言った。
「俺は今日、この部屋に泊まらせてもらうことになったよ。部屋を用意するって言われたけど、なんだか落ち着かないし、この部屋は広いから、そこのソファで寝させてもらう。
 あっ、でも、増永の部屋なのに、勝手に決めちゃって悪かったかな」
 翔は、ちょっと笑った。
「僕はもう、増永じゃないよ」
 便宜上、学校ではそう名乗っていただけだ。

「あぁそうか、翔。じゃあ、俺のことも下の名前で呼んでくれ」
「えぇと……なんていうんだっけ」
「なんだ、知らないのかよ。基樹だよ」
「へぇ」
 藍が笑い声を上げた。
「おかしいわね。友達なのに名前も知らないなんて。私のことは、藍って呼んでね、基樹くん」

 そこにノックの音がして、久美が入って来た。
「お熱を測りましょう」
 そう言って、体温計を差し出す。計ってみると、三十八度二分あった。
 久美が渋い顔をする。
「いけませんね。お食事の後で、お薬を飲んでいただきましょう。その前に、包帯を替えましょうか。傷の具合も診ないと」
 腕の包帯を替えるためにシャツを脱ぐと、寒さに鳥肌が立った。
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