第152話 教祖

文字数 937文字

 世界を股にかける教団の教祖が滞在しているのだから、きっと最上階にあるスイートルームに違いない。そう思っていた翔の予想は裏切られた。
 廊下の、少し離れた場所から二人の外国人男性が見守っているのは、翔たちが休んでいた部屋と同じ階にある部屋だった。佐渡が、ドアをノックする。
「お二人をお連れしました」
 藍が、翔の手を握る。翔は、全身で自分の心臓の鼓動を聞きながら、ごくりと唾を飲み込む。
 
 ドアを開けたのは、眼鏡をかけた、佐渡と同年代に見える日本人男性だ。
「どうぞお入りください」
 佐渡が言う。
「私たちは、先ほどの部屋におりますので」
 そうだ。久美は、教祖と会うのは、翔と藍だけだろうと言っていた。思わず基樹の顔を見ると、彼は微笑みながら言った。
「親子初対面、楽しんで来いよ」


 藍と手を取り合いながら、中に入る。だが、そこに教祖の姿はない。奥のベッドルームにいるのだろう。
 眼鏡の男性が言った。
「私は、教祖の滞在中、お世話させていただいています、日本支部の野本と申します。通訳をさせていただきます」
 二人はただ、黙ってうなずくことしか出来ない。
「教祖は、お二人にお会いすることを、とても楽しみにしていらっしゃいます。それでは、奥へどうぞ」

 野本が、ベッドルームのドアをノックする。
「You're in」
 静かにドアを開けた野本は、そのまま脇によけた。
 もう、後には引けない。こんなときくらいは。そう思い、翔は、先に立って奥に進んだ。
 
「Oh……My dear babys」
 そう言いながら、腰かけていたベッドから立ち上がったのは、長身の白人男性だ。またしても、翔の予想は裏切られた。
 長めの白っぽいブロンドの髪を、無造作に後ろでまとめた彼が着ているのは、スポーツメーカーのロゴが入ったパーカーと、すり切れたデニムだ。履いているのは、パーカーと同じメーカーのスニーカー。
 ……これが、カルト教団の教祖? 
 
 ぽかんと見つめている二人に大股で近づいて来ると、教祖は、二人まとめて、がばっと抱きしめた。力強い腕で体を揺さぶられ、ふわりと柑橘系の香りに包まれる。
「Please show me your face」
 そう言われ、思わず見上げると、潤んだ碧い瞳が見下ろしていた。
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