第14話 花びら

文字数 762文字

ゆっくり話したかったと言いながら、一言も発しないまま、藍は翔にしがみついて来た。唇から漏れる吐息が熱い。
翔は、短いキスの後、すぐに藍をあお向けにさせて、ネグリジェのボタンに手をかけた。興奮しているせいか、指がわなわなと震えて思うようにならず、ずらりと並んだ小さなボタンが恨めしい。

だが、ようやくむき出しになった胸を見て、翔の手が止まった。白い肌にくっきりと残る、小さな花びらのような赤い痕。これは、まさか……。
目を閉じて、翔に身をまかせていた藍が目を開けた。
「……翔?」
 体はもう、痛いくらいに藍を欲している。だが、見過ごすことなど出来ない。藍が、いぶかしげな顔をして起き上がった。
 
 翔は、震える指で、赤い花びらに触れる。
「これ……」
「え?」
 藍が、自分の胸を見下ろす。一瞬、はっとしたような顔をしたものの、すぐに笑顔になって言った。
「あぁ、床に落ちたノートを拾おうとして、机の角にぶつけたのよ」

 翔は、なおも花びらを見つめる。打撲痕が、こんなふうになるものだろうか。
「痛かったわ。翔、優しくさすって」
 そう言いながら、藍は翔の手を取り、自分の胸に導いた。藍の言葉を鵜呑みにしたわけではないが、激情に突き動かされ、翔は、藍の乳房をぎゅっと握った。
「痛い! もっと、優しく……」
 白い喉を見せながら眉根を寄せる藍の花びらに、翔は唇を当てる。
 
 
 週末の間、それまでの空白を埋め合わせるかのように、二人は何度も体を重ねた。一度など、翔がシャワーを浴びているところに裸の藍が入って来て、そのまま、初めてバスルームでした。
 そして新しい一週間が始まると、藍の興味は、翔から、あっさり「お手伝い」や万葉集へと移る。だが、その間も、翔の頭の中は藍のことでいっぱいで、週末の藍とのことを思い返しながら、何度も自分の体を苛んだ。
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