第114話 母屋

文字数 689文字

 翌朝、真佐が自分用に買って、まだ未使用だという厚手の部屋着風のワンピースに着替えていると、彼女がやって来た。
「おはよう」
「おはようございます」
 真佐が、藍の姿を見て微笑んだ。
「地味過ぎるかと思ったけれど、よく似合っているわ。返って若さと美しさを引き立てているみたい」
「はぁ……」
 そんなふうに言われると、少し照れくさい。

「気分はどう?」
「えぇ、もうすっかりよくなりました」
「どこか痛むところは?」
「いいえ」
「よかった。ところで、あっちで一緒に朝ご飯にしない?」
 そう言いながら、真佐が部屋の外を指す。
「はい」


 案内され、病室から廊下でつながっている母屋に入って行くと、陸人が、テーブルに食器を並べているところだった。足音に振り向いた陸人は、緊張の面持ちで藍を見つめながら言う。
「あっ、おはようございます」
「おはよう」
 真佐が、椅子を引いて言った。
「どうぞ座って。むさくるしいところでごめんなさいね」

 藍は、首を横に振る。
「いえ、そんなことありません」
 生活感にあふれた、温かい雰囲気の部屋だ。山の上の屋敷の無機質でだだっ広いダイニングルームより、よほど居心地がいい。
 陸人は、慣れた手つきで、茶碗にご飯をよそっている。真佐が言う。
「ここに置く代わりに、食事の支度をしてもらうことにしたの。私、本当は料理があまり好きじゃないのよ」

 藍は言う。
「それなら、私も何か……」
 真佐が笑う。
「あなたはいいのよ。どうぞ座っていらして」
 陸人が、あわてたように言った。
「僕が勝手にお連れしたんですから、藍さんは、何も気になさらないでください。僕は、ログハウスでも料理を担当していましたから」
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