第48話 到着

文字数 698文字

 長い時間、車に揺られ、途中から、腕時計を見る気力も失せた。どうせこれからは、時間など気にしても意味がないのだ。
 やがて車は高速道路を下り、いつしか木立の間を走り始めた。道路は、いくらか登り勾配になっているようだ。
 車内が疲労感に包まれ、辺りがすっかり暗くなった頃、車を停めて、増永が言った。
「到着しましたよ」
 三人は、背もたれから体を起こす。アイマスクを外そうとした基樹に、増永が鋭く言った。
「まだそのまま」
 
 暗い空の下、ずっと先まで続く高い塀の向こうに、鉄塔や煙突のようなシルエットが見える。そこは、巨大な廃工場のような場所だった。
 増永が、車を降りて、塀の途中にある、小さな扉のようなところに歩いて行った。
 わずかに扉が開く。車内からは見えないが、扉の奥に人がいるようで、何事か言葉を交わした後、増永が戻って来た。
 やがて、ガラガラと音を立てながら、正面のゲートが開き始めた。
 
 
 車は吸い込まれるように、ゆっくりとゲートの奥に入って行く。明かりのついていない建物や、倉庫のようなものが立ち並ぶ横を通り過ぎ、しばらく進んで行くと、再びゲートが現れた。
 翔はふと、洋館のゲートを思い出す。二つ目のゲートは、車が近づいて行くと、人の手によって開けられた。
 洋館とは違い、三つ目のゲートはなく、その奥に、優雅な外観の洋館とは似ても似つかない、四角く武骨な、けれども洋館をしのぐ大きさの建物がそびえ立っていた。車の後ろで、すぐにゲートが閉まる。
 
 増永が、建物の正面に車を停め、後ろを振り返って言った。
「ここが、今日からあなた方の住まいです。藤崎さん、アイマスクを取っていただいてけっこうですよ」
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