第108話 追及

文字数 703文字

 陸人は、一瞬、入り口で立ち止まって、ちらりと藍を見た後、うつむいて、おずおずとベッドのそばまでやって来た。
「すいませんでした……」
 思いがけず、しおらしいことを言う。こんな大胆なことをしでかした人の言葉とも思えない。
 藍は初めて、まじまじと陸人の全身を見る。救急車の中では、それどころではなかったから。
 
 ひょろりと背が高く、ほっそりとした顔に、今は眼鏡をかけている。普段はコンタクトレンズを着けていたのか、それとも、眼鏡は変装のつもりなのだろうか。
 まずは、一番気になっていたことを聞く。
「増永は、どうなったの?」
「それは、多分……」
 陸人は口ごもる。
 
 だが、藍は追及の手をゆるめない。
「銃声が聞こえたようだったけど」
 車から連れ出されるとき、男たちの一人が、増永に銃を突きつけているのが見えた。
「増永さんは、多分、もう……」
「そんな、まさか……」
 陸人は、眼鏡に手をやりながら、うつむく。
「初めから、そういう計画でしたから」
 ある程度、予想はしていたものの、やはりショックだ。それとともに、怒りが湧く。
「よくもそんなひどいことを。あなた、知っていて、なんとも思わなかったの!?

 増永は非情で冷徹で、藍たちのわがままなど一切聞いてはくれなかった。藍も翔も、そんな増永をうとましく思っていた。
 だが彼は、今までずっと、あらゆる危険から二人を守り続けてくれていたのだ。洋館で翔が襲われたときにも、彼が素早く対処していなかったら、どうなっていたかわからない。
 世間的に、そう言っていたように、彼は、ある意味、父親のような存在だった。たとえそれが愛情によるものではなく、教団の信者ゆえの行動だったとしても。
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