第97話 電話

文字数 581文字

 押し戻そうとするが、基樹は平気な顔をして言う。
「俺たちが勉強している間に、彼女がこの部屋に来たことなんかないだろ」
「でも……」
「いいから」
 そう言って、基樹が顔を斜めにしながら唇を重ねようとしたとき、突然、部屋の外で、バタバタと足音がした。
 
 二人はあわてて離れる。だから言ったのに。そう思った直後、ノックもないまま、勢いよくドアが開いた。
「翔さん!」
 久美が、スマートフォンを差し出しながら言う。
「藍さんからお電話です。お出になってください!」
「えっ?」
「早く!」

 戸惑いながら、スマートフォンを耳に当てる。
「もしもし?」
 すると、聞こえて来たのは、懐かしい声だった。
「翔? 私、藍よ」
「藍!……元気なの? 今どこにいるの?」
「私は元気よ。翔は元気? また泣いたりしてない?」
「泣いてなんか……」
 そんなふうに言われて、返って涙が滲む。
 
 だが、涙をこらえて尋ねる。
「ねぇ、今どこにいるの? 増永は?」
 だが、答えを聞くことは出来なかった。
「あっ……」
 小さくつぶやく声が聞こえた直後、電話は唐突に切れてしまった。
「藍! 藍!」

 久美が、不安げに尋ねる。
「翔さん、どうなさいましたか?」
「切れた……」
 呆然としている翔の手から、スマートフォンを受け取りながら、久美が言った。
「着信の記録から、藍さんの居場所がわかるかもしれません。すぐに上層部に連絡します!」
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