第1話 翔と藍

文字数 1,112文字

 日曜日の昼下がり、翔と藍は、先ほどまでの余韻に浸りながら、まだ裸のままベッドに並んで横たわり、雨の音を聞いていた。
 それは、最近覚えたばかりの遊びで、二人とも、ほとんど夢中になっていると言っていい。もちろんそれが、決して許されないことなのはわかっている。
 
 
 翔と藍は、増永善文と久美の両親のもとに生まれた二卵性の双子で、両親とともに森の洋館に住んでいる。
 洋館は、善文が、莫大な遺産の一部として、親から受け継いだものだ。翔と藍は、何不自由なく育てられ、その洋館から、近くの、大学付属の私立高校に通っている。
 表向きは。
 
 翔と藍が二卵性双生児なのは事実だが、善文たちと血縁関係はない。翔と藍は、純粋な日本人でさえない。
 二人は、日本人の母親と、ある白人男性の間に生まれた。そのため、肌は透き通るように白く、柔らかく波打つ髪や、儚げで美しい顔は、華奢な体つきと相まって、どこか妖精めいて見える。
 
 二人は、その容姿のせいで、学校では生徒たちの視線を惹きつけてやまなかったが、決して知られることの許されない秘密を守るため、彼らと交流することは、固く禁じられている。
 小さい頃から、翔と藍は、家でも学校でも、ずっと二人きりで過ごして来た。成長するにつれ、お互いの体の違いを意識し、惹かれ合い、愛し合うようになったのは、自然な流れだった。
 
 
「あ、車の音」
 藍がベッドを下りて、窓辺に近づいて行く。翔は、あわてて声をかける。
「おい、服を着ろよ。増永に見られたらどうする」
 だが、藍はのんびりと答える。
「大丈夫よ。こんな土砂降りの中、わざわざ三階の窓を見上げたりしないわ」
 そして、小さく丸い尻をこちらに向けて、伸び上がるようにして、窓の外をのぞいている。
 翔は、床に脱ぎ捨てられたままのワンピースを拾って藍に近づくが、そういう自分も、まだ裸のままだ。
 
 
 石造りの洋館は、さる組織が翔と藍のために用意したもので、増永善文と箕部久美は、二人を守り、身の回りの世話をするために、組織が選んだ執事とメイドだ。
 翔と藍は、物心がついたときには、すでに二人きりだったが、自分たちの出自と、自分たちがどのような存在であるかということは、増永たちに繰り返し教え諭されて来た。
 その秘密が白日のもとにさらされたとき、自分たちがどうなるかということも。
 
 その事実は、二人の孤独感を強めるとともに、お互いを、より深く結びつける要因になった。その結果、まだ大人になりきらないうちから、二人が男女の関係になったのは、組織も増永たちも、予想外だったはずだ。
 もっとも、二人はそのことをひた隠しにしているし、絶対に知られてはならないことだとわかっている。
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