第100話 急展開

文字数 884文字

 その後の展開は、翔が思っていたより、ずっと早かった。翌日、集中できないまま、勉強室で基樹と並んでパソコンに向かっていると、ドアをノックして、久美が足早に入って来た。
「藍さんの居場所がわかりました。今、関係者がそちらに向かっています」
「藍は無事なの?」
 翔はずっと、電話が切れた後に何かあったのではないかと、心配でならないのだ。
 
 久美が言った。
「それは、まだわかりませんが、今から私も、藍さんをお迎えに向かいます。それで、お二人にお願いがあるのですが……」
 基樹が口を開く。
「なんですか?」
「藍さんは、保護された後、健康診断のために、一時的に入院することになります。何もなければ、それほど長くかからないと思いますが、私が藍さんをお連れして戻るまでの間、お二人でお過ごしになっていただきたいのです」

 基樹は、表情を緩め、翔をちらりと見てから言った。
「それなら、大丈夫ですよ」
「食材は十分にありますし、温め直して召し上がっていただけるように、料理も作って冷凍してあります。ですが、どうしても守っていただきたいことがあるのです」

 久美は、二人の顔を交互に見ながら、諭すように語りかける。
「私が戻るまでは、たとえどんなことがあっても、この屋敷の敷地内に、決して誰も入れないでください。あるいは、私や信者を騙って、理由を作って入ろうとする者がいるかもしれませんが、騙されないようにしてください。
 私は、これから車で出かけて、帰って来たときは、自分でゲートを開錠して入って来ます。それが出来るのは、私だけです。
 ですから、誰かがチャイムを鳴らしても、決してインターフォンにも応答しないでください」
 
 自分の立場を思い、翔は、にわかに不安になる。自分のことも、藍がそうされたように、隙あらば拉致しようと画策している者たちがいるかもしれないのだ。
 だが、基樹が力強く言った。
「大丈夫です。絶対に、誰も入れません。翔のことは、俺が必ず守ります」
 久美が、小さくうなずきながら言う。
「どうかよろしくお願いします」


 久美は、ほかにもいくつかの注意事項を並べてから、昼前には出かけて行った。
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