第162話 確信
文字数 892文字
やがて、季節は夏になった。標高が高いので、気温は低めで、涼しい風が吹き渡り、それほど暑さは感じないものの、山々の緑が濃くなり、日差しも強い。
最近の藍は、出産に備え、運動のために庭を散歩するのが日課なのだが、日傘と日焼け止めを欠かさない。
「翔も私と同じで紫外線に弱いから、外に出るときは日焼け止めを塗らなくちゃ駄目よ」
藍はそう言うのだが、翔は、べたべたする日焼け止めが苦手で、そのせいもあって、室内にこもりがちだ。
基樹に用事がない日は、最近では、涼しい玄関ポーチか大広間で一緒に過ごすことが多い。ときには、そこに藍も加わる。
今日は大広間で、ここに来てから撮りためた写真を三人で見ている。周りの風景を写したものや、お互いを撮り合ったものだ。
「ずいぶん変わったな」
基樹が、その中の一枚を手に取って、つぶやいた。藍が手元をのぞき込む。
「そうね」
翔が二人を見ていると、藍が微笑みながら、写真を差し出した。それは、玄関ポーチにたたずむ、この屋敷に来て間もない頃の藍が写ったものだった。
ほっそりとして、腰まで届きそうな長い髪が美しい。あの頃は、まさかこんな未来が待っているとは想像もしていなかった。
藍は、安定期に入り、だんだん腹部が目立ち始めた。定期的に病院に通い、お腹の子の成長は順調なようだ。
病院には、毎回、佐渡の運転で通い、相変わらず、藍は、彼に親しげに接している。やっぱり翔には、藍がどういう気持ちでそうしているのか、よくわからない。
だが最近は、寡黙だが、いつも穏やかで冷静な佐渡が、ずっと藍のそばにいてくれるならば、それも悪くないと思うようになっている。佐渡は、藍のことをどう思っているのだろう……。
そんなある日、朝食が終わりに近づいたダイニングルームに、佐渡が入って来た。その姿を見ただけで、翔はぎくりとする。
三人に向かって頭を下げる佐渡の姿を見ながら、翔はふと、増永を思い出した。彼が部屋にやって来るとき、彼はたいてい、よくない知らせを携えていたのではなかったか。
佐渡もまた……? 後から入って来た、久美の硬い表情を見て、その思いは確信に変わる。
最近の藍は、出産に備え、運動のために庭を散歩するのが日課なのだが、日傘と日焼け止めを欠かさない。
「翔も私と同じで紫外線に弱いから、外に出るときは日焼け止めを塗らなくちゃ駄目よ」
藍はそう言うのだが、翔は、べたべたする日焼け止めが苦手で、そのせいもあって、室内にこもりがちだ。
基樹に用事がない日は、最近では、涼しい玄関ポーチか大広間で一緒に過ごすことが多い。ときには、そこに藍も加わる。
今日は大広間で、ここに来てから撮りためた写真を三人で見ている。周りの風景を写したものや、お互いを撮り合ったものだ。
「ずいぶん変わったな」
基樹が、その中の一枚を手に取って、つぶやいた。藍が手元をのぞき込む。
「そうね」
翔が二人を見ていると、藍が微笑みながら、写真を差し出した。それは、玄関ポーチにたたずむ、この屋敷に来て間もない頃の藍が写ったものだった。
ほっそりとして、腰まで届きそうな長い髪が美しい。あの頃は、まさかこんな未来が待っているとは想像もしていなかった。
藍は、安定期に入り、だんだん腹部が目立ち始めた。定期的に病院に通い、お腹の子の成長は順調なようだ。
病院には、毎回、佐渡の運転で通い、相変わらず、藍は、彼に親しげに接している。やっぱり翔には、藍がどういう気持ちでそうしているのか、よくわからない。
だが最近は、寡黙だが、いつも穏やかで冷静な佐渡が、ずっと藍のそばにいてくれるならば、それも悪くないと思うようになっている。佐渡は、藍のことをどう思っているのだろう……。
そんなある日、朝食が終わりに近づいたダイニングルームに、佐渡が入って来た。その姿を見ただけで、翔はぎくりとする。
三人に向かって頭を下げる佐渡の姿を見ながら、翔はふと、増永を思い出した。彼が部屋にやって来るとき、彼はたいてい、よくない知らせを携えていたのではなかったか。
佐渡もまた……? 後から入って来た、久美の硬い表情を見て、その思いは確信に変わる。