第7話 激情

文字数 818文字

 体が熱い。あぁ、もう……。
 藍の両肩をつかんで押し倒そうとした瞬間、ドアがノックされた。翔があわてて離れると、藍は素早く立ち上がって窓辺に行き、外に顔を向ける。
 ドアが開いて、トレーを持った久美が入って来た。
「お茶はもうお済みですか?」
 藍が、くるりと振り返る。
「えぇ。これから宿題をするところよ」

「お食事に遅れませんように」
 テーブルを片付けた久美は、そう言って部屋を出て行った。
「びっくりしたわね」
 藍が、肩にかかる髪を後ろに跳ね上げながら、いたずらっぽく笑う。それから、まだ呆然としている翔の顔をのぞき込んだ。
「翔、大丈夫?」

 翔は、ため息をつく。
「大丈夫じゃないよ」
 体が反応してしまい、すぐには収まってくれそうにない。
「女の子とは違うんだ……」
 藍の目が、妖しく揺らめく。
「私に、してほしい?」
 藍が、翔の目を見つめながら手を伸ばして来る。
 
「やめてくれよ!」
 思わず声を荒げると、藍が、驚いたように手を引っ込めた。
「あ……ごめん」
 翔は、いたたまれなくなって、よろよろと立ち上がると、トイレに逃げ込んだ。
 
 
 トイレのドアにもたれて、思わず天を仰ぐ。藍には、あんなふうにしてほしくない。
 自分にとって藍は、たった一人の大切な女の子なのに……。
 だが、悲しい気持ちとは裏腹に、体の中心部は、熱くいきり立ったままだ。まるで、翔をあざ笑うかのように……。
「チクショウ……」
 吐き捨てるように言いながら、翔は、乱暴にウェストのボタンを外し、下着ごとズボンを引き下ろした。
 
 
 激情が去った後、我に返った翔は、自分の姿を見下ろして、情けない気持ちになった。こんなみっともない格好で、何をやっているんだ……。
 ズボンをはいて、閉じたトイレの蓋の上に座り込み、息が整うのを待つ。たやすく欲望に翻弄される自分が嫌でたまらない。
 どうして僕は、こんな……。
 
 ようやく心も体も落ち着いて、トイレから出たときには、藍の姿は部屋から消えていた。
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