第72話 新居
文字数 1,075文字
数ヶ月ぶりに目にした屋外は、一面、真っ白な雪に覆われていた。そこだけ除雪された玄関前に、見慣れた車が、すでにエンジンをかけた状態で待機している。
二人がシートベルトを締めるのを待って、車が動き出す。後ろを振り仰ぐと、巨大な檻のような建物が、徐々に遠ざかって行く。
初めて洋館を出て、基樹と藍とともに過ごした場所。初めは、閉鎖された、狭く殺風景な部屋に愕然としたけれど、今では、いくつもの思い出が詰まっている。
もう二度と訪れることはないだろう。そして今も、基樹はあの中に……。
今日も人影はなく、ここに来た日、夜の闇の中で見た廃工場のような建造物の数々は、今は雪を被り、静かに眠っているように見える。
車は、二つのゲートを通り、やがて敷地の外に出て、車道を走り出した。翔は、しばらくの間、窓の外に顔を向けて涙を流していたが、いつしか、疲れのせいで眠ってしまった。
名前を呼ばれて目を覚ますと、車は、コンビニの駐車場に入ったところだった。洋館を去った日のことを思い出し、基樹が隣にいないことに、寂しさが込み上げる。
それと同時に、鈍い頭痛を感じた。そう言うと、あの日と同じように、車内で食事をした後、久美が鎮痛剤をくれた。
車は、高速道路に向かって走り出し、目を閉じて痛みに耐えているうちに、翔は再び眠った。
次に目が覚めたとき、車は、夕暮れの迫る中、雪を被った木立の間を通る坂道を走っていた。どうやら、山を登って行っているようだ。
新しい住まいは、山の上にあるのだろうか。横を見ると、やはり眠っていたらしい藍が、目をこすりながら顔を上げた。
「ここ、どこ?」
「さぁ……」
久美が、助手席から振り返って言った。
「お二人とも、お目覚めのようですね。もう少しで到着いたしますよ」
車は、森の中を蛇行する道路をどんどん上って行く。
翔は考える。そこもまた、翔と藍が長い間暮らして来た、洋館のようなところなのだろうか……。
増永が、ダッシュボードから取り出したリモコンを操作すると、無機的な白いゲートがゆっくりと開き始めた。
翔の予想は裏切られた。山の頂上近くに建っていたのは、古めかしい石造りの洋館とは似ても似つかない、近未来的な雰囲気のモダンな建物だった。
増永は、三人を玄関ポーチの前で降ろすと、そのままガレージに向かった。翔と藍は、呆然と建物を見上げる。
久美が、微笑みながら言った。
「ここが、今日からお二人のお住まいですよ。長い間車に揺られて、お疲れになったでしょう。
さぁ、お入りになってください」
翔と藍は、思わず顔を見合わせる。
二人がシートベルトを締めるのを待って、車が動き出す。後ろを振り仰ぐと、巨大な檻のような建物が、徐々に遠ざかって行く。
初めて洋館を出て、基樹と藍とともに過ごした場所。初めは、閉鎖された、狭く殺風景な部屋に愕然としたけれど、今では、いくつもの思い出が詰まっている。
もう二度と訪れることはないだろう。そして今も、基樹はあの中に……。
今日も人影はなく、ここに来た日、夜の闇の中で見た廃工場のような建造物の数々は、今は雪を被り、静かに眠っているように見える。
車は、二つのゲートを通り、やがて敷地の外に出て、車道を走り出した。翔は、しばらくの間、窓の外に顔を向けて涙を流していたが、いつしか、疲れのせいで眠ってしまった。
名前を呼ばれて目を覚ますと、車は、コンビニの駐車場に入ったところだった。洋館を去った日のことを思い出し、基樹が隣にいないことに、寂しさが込み上げる。
それと同時に、鈍い頭痛を感じた。そう言うと、あの日と同じように、車内で食事をした後、久美が鎮痛剤をくれた。
車は、高速道路に向かって走り出し、目を閉じて痛みに耐えているうちに、翔は再び眠った。
次に目が覚めたとき、車は、夕暮れの迫る中、雪を被った木立の間を通る坂道を走っていた。どうやら、山を登って行っているようだ。
新しい住まいは、山の上にあるのだろうか。横を見ると、やはり眠っていたらしい藍が、目をこすりながら顔を上げた。
「ここ、どこ?」
「さぁ……」
久美が、助手席から振り返って言った。
「お二人とも、お目覚めのようですね。もう少しで到着いたしますよ」
車は、森の中を蛇行する道路をどんどん上って行く。
翔は考える。そこもまた、翔と藍が長い間暮らして来た、洋館のようなところなのだろうか……。
増永が、ダッシュボードから取り出したリモコンを操作すると、無機的な白いゲートがゆっくりと開き始めた。
翔の予想は裏切られた。山の頂上近くに建っていたのは、古めかしい石造りの洋館とは似ても似つかない、近未来的な雰囲気のモダンな建物だった。
増永は、三人を玄関ポーチの前で降ろすと、そのままガレージに向かった。翔と藍は、呆然と建物を見上げる。
久美が、微笑みながら言った。
「ここが、今日からお二人のお住まいですよ。長い間車に揺られて、お疲れになったでしょう。
さぁ、お入りになってください」
翔と藍は、思わず顔を見合わせる。