第167話 いきさつ
文字数 1,327文字
なるほど、そういうことかと思っていると、父が、探るように言った。
「何があったんだ。悪い奴にそそのかされたのか?
警察には、お前の身の安全は保障するから、会うのはしばらく待つようにと言われたが、出来れば、すぐにでも会いたい。
なんなら、これからすぐに日本に戻ろうかと思っているんだが」
なんだかくすぐったいような気持ちになって、基樹は思わずにやけてしまう。父も母も、自分に興味などなく、どこにいようが、何をしていようが気にも留めないだろうと思っていたのだが。
「心配いらないよ。俺はずっと快適に暮らしている。今は教団が解散したばかりでバタバタしているみたいだから、会うのは、それが落ち着いてから」
「そうか?」
どこか不満そうな口ぶりの父は、さらに言った。
「教団に入ったのは、やっぱり俺のせいなんだろうな」
基樹は、とうとう声を出して笑った。
「そんなわけないだろ」
だが、行方不明になって久しい自分の息子が、カルト教団に入信していたと知ったら、どんな親でも驚き、心配するのは当たり前だろう。そこで基樹は、簡単にいきさつを話すことにした。
「確かに、俺は孤独だったし、つまらない毎日にうんざりもしていた。そんなときに、たまたま教団のことを知ったんだ。
何かが少しでも変わるなら、それもいいと思って、軽い気持ちで入信した。正直、教義だのなんだのはどうでもよかったんだ。
学校にも、日常にも未練はなかった」
それよりも、翔と一緒に行くことを選んだのだ。
「教義を学んだり、訓練を受けたりしたけど、辛いことなんて何もなかったし、危ない目に遭ったこともない。派閥争いだの犯罪行為だのがあったことは聞いているけど、ほんの下っ端の俺には関係ないことだよ。
俺はずっと、安全で快適な場所にいた。それに、大切な仲間も出来た。
学校に通っていた頃よりも、ずっと充実した毎日を送っていたよ」
「そうなのか……」
「教団についてはともかく、入信したこと自体は一つも後悔していない。教団は解散したけど、ここで出来た人間関係は、ずっと大切にしていきたい。
まだ誰にも言っていないけど、出来ることならば、このまま設立された財団で働きたいと思っているんだ」
そして、このままずっと翔のそばにいられたら……。
自分の気持ちを話し終え、ほっと息を吐いた基樹に、父が言った。
「お前は違うと言ったが、やっぱり俺のせいだな」
「父さん……」
「寂しい思いをさせてすまなかった。やっぱりお前を一人にするべきじゃなかった。
今はただ、申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」
「そんなことないよ。俺が自分で選んだんだ」
「いや、俺が……」
言いかけて、父は笑った。
「これじゃ水掛け論だな。どっちにしても、俺にも責任があるし、基樹が幸せならば、好きなようにしてかまわない。
だが、親の勝手な言い分かもしれないが、せめて高校だけは卒業してほしいな。考えてくれないか?」
「わかった。考えてみる」
これからは頻繁に連絡を取り合い、落ち着いたら、一度会うことを約束して、電話を切った。父とこんなに話をしたのは久しぶりだ。
まだぼんやりとしていた気持ちが、口に出すことによってはっきりした。やはり財団で働かせてほしいと強く思う。
「何があったんだ。悪い奴にそそのかされたのか?
警察には、お前の身の安全は保障するから、会うのはしばらく待つようにと言われたが、出来れば、すぐにでも会いたい。
なんなら、これからすぐに日本に戻ろうかと思っているんだが」
なんだかくすぐったいような気持ちになって、基樹は思わずにやけてしまう。父も母も、自分に興味などなく、どこにいようが、何をしていようが気にも留めないだろうと思っていたのだが。
「心配いらないよ。俺はずっと快適に暮らしている。今は教団が解散したばかりでバタバタしているみたいだから、会うのは、それが落ち着いてから」
「そうか?」
どこか不満そうな口ぶりの父は、さらに言った。
「教団に入ったのは、やっぱり俺のせいなんだろうな」
基樹は、とうとう声を出して笑った。
「そんなわけないだろ」
だが、行方不明になって久しい自分の息子が、カルト教団に入信していたと知ったら、どんな親でも驚き、心配するのは当たり前だろう。そこで基樹は、簡単にいきさつを話すことにした。
「確かに、俺は孤独だったし、つまらない毎日にうんざりもしていた。そんなときに、たまたま教団のことを知ったんだ。
何かが少しでも変わるなら、それもいいと思って、軽い気持ちで入信した。正直、教義だのなんだのはどうでもよかったんだ。
学校にも、日常にも未練はなかった」
それよりも、翔と一緒に行くことを選んだのだ。
「教義を学んだり、訓練を受けたりしたけど、辛いことなんて何もなかったし、危ない目に遭ったこともない。派閥争いだの犯罪行為だのがあったことは聞いているけど、ほんの下っ端の俺には関係ないことだよ。
俺はずっと、安全で快適な場所にいた。それに、大切な仲間も出来た。
学校に通っていた頃よりも、ずっと充実した毎日を送っていたよ」
「そうなのか……」
「教団についてはともかく、入信したこと自体は一つも後悔していない。教団は解散したけど、ここで出来た人間関係は、ずっと大切にしていきたい。
まだ誰にも言っていないけど、出来ることならば、このまま設立された財団で働きたいと思っているんだ」
そして、このままずっと翔のそばにいられたら……。
自分の気持ちを話し終え、ほっと息を吐いた基樹に、父が言った。
「お前は違うと言ったが、やっぱり俺のせいだな」
「父さん……」
「寂しい思いをさせてすまなかった。やっぱりお前を一人にするべきじゃなかった。
今はただ、申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」
「そんなことないよ。俺が自分で選んだんだ」
「いや、俺が……」
言いかけて、父は笑った。
「これじゃ水掛け論だな。どっちにしても、俺にも責任があるし、基樹が幸せならば、好きなようにしてかまわない。
だが、親の勝手な言い分かもしれないが、せめて高校だけは卒業してほしいな。考えてくれないか?」
「わかった。考えてみる」
これからは頻繁に連絡を取り合い、落ち着いたら、一度会うことを約束して、電話を切った。父とこんなに話をしたのは久しぶりだ。
まだぼんやりとしていた気持ちが、口に出すことによってはっきりした。やはり財団で働かせてほしいと強く思う。