第18話 相手
文字数 1,041文字
勢い込んでやって来たものの、翔は、藍の部屋の前で躊躇する。いったい、どんな顔をして藍に対面すればいいのだろう……。
だが、藍の妊娠には、自分にも責任があるのだ。話をしないわけにはいかない。
思い切ってドアをノックすると、すぐに返事があった。
「はい」
「……僕だよ」
「入って」
藍は、クッションにもたれるようにして、ベッドの上で上体を起こしていた。翔は、ゆっくりと近づく。
そんな場合ではないのに、涙がこみ上げそうになる。無理矢理、涙を押し戻して、声をかける。
「藍……」
だが、その後を、なんと続ければいいのかわからない。
立ち尽くす翔に、藍が、自分の横を手で示しながら言う。
「ここに座って」
言われた通りにすると、藍が、そっと翔の手に触れた。
「藍、ごめん」
そう言うなり涙がこぼれてしまい、あわてて手の甲でぬぐう。泣きたいのは、きっと藍のほうなのに……。
藍が言った。
「謝らないで」
「でも、僕のせいだ」
すると藍が、翔の頬に触れながら言った。
「翔。話があるの」
藍の話は、思いがけないようでもあり、心のどこかでは予想していたような内容だった。
藍は言った。
「私、鮎川先生とも、そういう関係だったの」
翔の脳裏に、藍の胸に刻まれた、赤い花びらがよみがえる。あれは、やはりキスマークだったのだ。
愕然とする翔に向かって、藍が追い打ちをかける。
「私から誘ったのよ。私、翔のことを愛しているけれど、先生にも、強く惹かれていたの。
思いを打ち明けると、先生は受け止めてくれたわ」
「あぁ……」
翔の目から、再び涙がこぼれ落ちる。もう、ぬぐう気力もない。
やはりそうなのだ。鮎川と微笑み合う藍を見たときから、そんなことなのではないかとうすうす感じていた。
でも、まさか体の関係にまでなっていたなんて……。
「僕だけじゃ、駄目だったの?」
あんなに何度も愛し合ったのに……。
「翔、ごめんね」
藍が肩に置いた手を、翔は振り払った。
「謝らないでくれよ。そんなことされたら……」
ますます自分がみじめになる。だが、藍が言った。
「でもね、翔。増永たちには、お腹の子の父親は、鮎川先生だって言うわ」
翔は、思わず藍の顔を見る。翔とは違って、藍の目に涙はなく、その表情は落ち着いているように見える。
「そうすれば、少なくとも、翔とのことは知られずに済むわ」
「でも、実際にはどっちの……」
藍は、ため息をつきながら、首を横に振った。
「そんなこと、わからないわ」
その日からしばらくの間、藍は学校を休んだ。
だが、藍の妊娠には、自分にも責任があるのだ。話をしないわけにはいかない。
思い切ってドアをノックすると、すぐに返事があった。
「はい」
「……僕だよ」
「入って」
藍は、クッションにもたれるようにして、ベッドの上で上体を起こしていた。翔は、ゆっくりと近づく。
そんな場合ではないのに、涙がこみ上げそうになる。無理矢理、涙を押し戻して、声をかける。
「藍……」
だが、その後を、なんと続ければいいのかわからない。
立ち尽くす翔に、藍が、自分の横を手で示しながら言う。
「ここに座って」
言われた通りにすると、藍が、そっと翔の手に触れた。
「藍、ごめん」
そう言うなり涙がこぼれてしまい、あわてて手の甲でぬぐう。泣きたいのは、きっと藍のほうなのに……。
藍が言った。
「謝らないで」
「でも、僕のせいだ」
すると藍が、翔の頬に触れながら言った。
「翔。話があるの」
藍の話は、思いがけないようでもあり、心のどこかでは予想していたような内容だった。
藍は言った。
「私、鮎川先生とも、そういう関係だったの」
翔の脳裏に、藍の胸に刻まれた、赤い花びらがよみがえる。あれは、やはりキスマークだったのだ。
愕然とする翔に向かって、藍が追い打ちをかける。
「私から誘ったのよ。私、翔のことを愛しているけれど、先生にも、強く惹かれていたの。
思いを打ち明けると、先生は受け止めてくれたわ」
「あぁ……」
翔の目から、再び涙がこぼれ落ちる。もう、ぬぐう気力もない。
やはりそうなのだ。鮎川と微笑み合う藍を見たときから、そんなことなのではないかとうすうす感じていた。
でも、まさか体の関係にまでなっていたなんて……。
「僕だけじゃ、駄目だったの?」
あんなに何度も愛し合ったのに……。
「翔、ごめんね」
藍が肩に置いた手を、翔は振り払った。
「謝らないでくれよ。そんなことされたら……」
ますます自分がみじめになる。だが、藍が言った。
「でもね、翔。増永たちには、お腹の子の父親は、鮎川先生だって言うわ」
翔は、思わず藍の顔を見る。翔とは違って、藍の目に涙はなく、その表情は落ち着いているように見える。
「そうすれば、少なくとも、翔とのことは知られずに済むわ」
「でも、実際にはどっちの……」
藍は、ため息をつきながら、首を横に振った。
「そんなこと、わからないわ」
その日からしばらくの間、藍は学校を休んだ。