第163話 声明

文字数 1,012文字

 佐渡は、三人の顔を見渡すようにしながら言った。
「おはようございます。みなさんにお知らせがあります。
 数時間前、ウェブ上で、教祖の声明が発表されました。日本語に訳したものを、みなさんがお使いになっているパソコンにインストールしましたので、後ほどご覧になってください」
 
 
 三人は、ぞろぞろと三階の勉強室に向かった。それぞれの席に着いて、パソコンを立ち上げる。
 それは、教祖から信者に向かって発信された、教団の今後について書かれた文章だった。
 
 
   信者たちへ
   
 地元のカフェの片隅で発足したささやかな勉強会は、思いがけず多くの人に支持され、徐々に人数を増やしていった。やがて、熱心な支援者たちの手によって、現在の教団のもととなる団体が設立された。
 それは、驚くほどの速さで大きくなり、支援者の輪は、やがて国内のみならず、各国へと広がって行った。そのときはまだ、戸惑いながらも喜ばしいことだと思っていたのだが。
 
 教団が巨大化し、いつしか教団の教義は私の手を離れて曲解され、一部の狂信的な信者による、内部分裂の原因となった。
 教団が急激に変化していく中で、何度も軌道修正を試みたが、最早私には変化をくい止めることは出来ず、あろうことか、私までが命を狙われる身となった。
 
 今では、教団の名のもとに、各国で法を犯す行為が横行しており、これ以上看過出来ない。そこで私は、ここに教団の解散を宣言する。
 たった今、私は教祖の座を降り、一人の市井の人間に戻る。ただし、何人も、新たに教祖を名乗ることを硬く禁じ、何人も教団を継承しないことを、ここに宣言する。
 
 犯した罪は、各国の法の下に裁かれることになり、教団に損害を被った者は、このたび設立された財団によって救済されるものとする。
 
     エドワード・J・グレイン
     
     
 翔は、決して長くはない文章を、何度も読み返した。教団は解散し、教祖はただの人に戻る。つまりそれは、翔と藍も、長年置かれていた教祖の後継者という立場から、ただの人になったということか。
 なおも画面を見つめていると、隣で藍がつぶやいた。
「私たち、どうなるの?」
 翔は、藍の顔を見つめる。
 
 そこに、ドアをノックする音がした。
「失礼します」
 ドアを開けて佐渡が、続いて久美が入って来た。佐渡が言う。
「声明をお読みいただけましたか?」
 三人はうなずく。
「それでは、私から補足説明させていただきます」
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