第32話 ゲートの鍵
文字数 1,109文字
男に襲われた部屋で寝るのはいい気持ちがしなかったが、翔は、あえてそうした。眠れないながらも、少しの間うとうとした後、ベッドから出て、腕をかばいながら着替えた。
滅多に着ることのないパーカーを羽織り、ずっとクローゼットの棚に置かれていたものの、一度も被ったことのないキャップを目深にかぶる。
少し体がふらつき、頭痛もするが、そんなことを気にしている場合ではない。
翔は、部屋を出ると、足音を忍ばせて、一階に向かった。目指すのは、玄関ホール横の、管理室と呼ばれている部屋だ。
日中、増永はそこに控えている。いつもならば、夜は二階の自室で休んでいるはずだが、今もそうであることを願いながら階段を下りる。
暴れる心臓をなだめながら、そっとドアノブに手をかける。鍵はかかっていない。もしも中に増永がいたならば、すべてを諦めるしかないが。
細く開けたドアの向こうは暗闇だ。意を決してドアを大きく開くと、幸いなことに、部屋には誰もいなかった。
だが、安心するのはまだ早い。これから、三つあるゲートの鍵を探さなくてはいけない。
鍵を見つけたとしても、暗い中を次々にゲートを通り抜けながら、無事に森の外までたどり着けるのか、あまり自信はないが。
中に入ると、しっかりとドアを閉めてから、手探りで壁のスイッチを探し、電気を点ける。
管理室に入ることは禁じられていたが、前を通るときに、何度かちらりとのぞいたことはある。車のキーは、たしか、奥の壁にしつらえられた、金属の扉のついた棚の中に……。
もしも、その扉にも鍵がかかっていたらと思うと絶望的な気持ちになったが、少し軋みながら、扉は開いた。
今までずっと、翔も藍も、表立って増永たちに反抗したことはなかった。そんな自分をふがいないと思ったこともあったが、今となっては、従順を装い、彼らに警戒心を抱かせなかったことは正解だった。
今も、まさか傷を負った翔が、鍵を盗んで、ここから抜け出そうとしているなどとは想像もしていないだろう。
リングで一つにまとめられたゲートの鍵は、すぐに見つかった。おあつらえ向きに、棚の脇にあった懐中電灯を持って行くことにした。
棚の扉を元通りに閉めて、部屋の電気を消すと、翔は管理室を出た。
すべてのゲートを通り抜け、その都度、鍵を閉め直してから進み、ようやく森の外にたどり着いたときには、空は白み始めていた。足が重く、腕の傷も痛んだが、休んでいる暇はない。
翔は、重い懐中電灯を木の陰に隠して、駅に向かって歩き始めた。駅に着く頃には、始発電車も走り始めるだろう。
電車など、もう長いこと乗っていないが、たしか彼は、二駅先に住んでいるはずだ。
滅多に着ることのないパーカーを羽織り、ずっとクローゼットの棚に置かれていたものの、一度も被ったことのないキャップを目深にかぶる。
少し体がふらつき、頭痛もするが、そんなことを気にしている場合ではない。
翔は、部屋を出ると、足音を忍ばせて、一階に向かった。目指すのは、玄関ホール横の、管理室と呼ばれている部屋だ。
日中、増永はそこに控えている。いつもならば、夜は二階の自室で休んでいるはずだが、今もそうであることを願いながら階段を下りる。
暴れる心臓をなだめながら、そっとドアノブに手をかける。鍵はかかっていない。もしも中に増永がいたならば、すべてを諦めるしかないが。
細く開けたドアの向こうは暗闇だ。意を決してドアを大きく開くと、幸いなことに、部屋には誰もいなかった。
だが、安心するのはまだ早い。これから、三つあるゲートの鍵を探さなくてはいけない。
鍵を見つけたとしても、暗い中を次々にゲートを通り抜けながら、無事に森の外までたどり着けるのか、あまり自信はないが。
中に入ると、しっかりとドアを閉めてから、手探りで壁のスイッチを探し、電気を点ける。
管理室に入ることは禁じられていたが、前を通るときに、何度かちらりとのぞいたことはある。車のキーは、たしか、奥の壁にしつらえられた、金属の扉のついた棚の中に……。
もしも、その扉にも鍵がかかっていたらと思うと絶望的な気持ちになったが、少し軋みながら、扉は開いた。
今までずっと、翔も藍も、表立って増永たちに反抗したことはなかった。そんな自分をふがいないと思ったこともあったが、今となっては、従順を装い、彼らに警戒心を抱かせなかったことは正解だった。
今も、まさか傷を負った翔が、鍵を盗んで、ここから抜け出そうとしているなどとは想像もしていないだろう。
リングで一つにまとめられたゲートの鍵は、すぐに見つかった。おあつらえ向きに、棚の脇にあった懐中電灯を持って行くことにした。
棚の扉を元通りに閉めて、部屋の電気を消すと、翔は管理室を出た。
すべてのゲートを通り抜け、その都度、鍵を閉め直してから進み、ようやく森の外にたどり着いたときには、空は白み始めていた。足が重く、腕の傷も痛んだが、休んでいる暇はない。
翔は、重い懐中電灯を木の陰に隠して、駅に向かって歩き始めた。駅に着く頃には、始発電車も走り始めるだろう。
電車など、もう長いこと乗っていないが、たしか彼は、二駅先に住んでいるはずだ。