第138話 健診
文字数 908文字
藍は、つわりで、体調がすぐれない日が続いている。久美は、より一層献身的に、藍の世話をしている。
きっと久美は、翔と藍が小さな頃から、ずっと母親のような気持ちで接してくれているのだろう。今頃になって、そんなことに気づくのもおかしいが。
そして、藍が、健診のために病院に行く日がやって来た。佐渡が車に乗せて行き、警護のために、身元の確かな数人の信者が、別の二台の車で前後を挟んで行くという。
それでもまだ心配で、朝から食欲のない翔に、藍が言う。
「大丈夫よ。警護してくれるのは、みんなプロ並みの訓練を受けた人たちなんですって。もちろん、佐渡さんも、その一人よ」
いつの間にか藍は、佐渡とずいぶん親しくなっているようだ。基樹は、いくらか呆れたように、「藍って惚れっぽいんだな」と言っていた。
まさか、佐渡に対して恋愛感情を持っているわけではないだろうと思うが、翔も、基樹の言葉をはっきりとは否定出来ない。
増永は、滅多に、翔たちのプライベートな場所に顔を出すことはなかったが、庭や大広間で、たびたび藍と佐渡が言葉を交わしているのを見かけている。
それで、藍が楽しいのならばかまわないのだが、また今までのようなことになったらと、気がかりでもある。
「久しぶりに二人っきりで過ごせて、うれしいでしょう?」
ゆったりとしたコットンのワンピースを着た藍は、笑顔でそんなことを言いながら、佐渡の車の後部座席に乗り込む。警護の車は、ゲートの外で待機しているという。
「そう言う藍こそ、佐渡さんと二人で出かけられてうれしいんじゃないのか?」
基樹が、藍には聞こえないように、翔の耳元でぼそぼそとつぶやいた。久美は、翔たちから数歩下がったところに控えている。
藍が、ウィンドウを開けて言った。
「じゃあ、行って来るわね」
「気をつけて」
「えぇ。心配しないで待っていてね」
藍が、手を振ってウィンドウを閉めると、車は静かに動き出した。翔は、複雑な気持ちで見送る。
ゲートが閉まったのを見届けてから、久美が言った。
「よろしければ、お茶になさいませんか?」
翔が顔を見ると、基樹が言った。
「そうだな。なんだか、変に気疲れしたし」
「うん……」
きっと久美は、翔と藍が小さな頃から、ずっと母親のような気持ちで接してくれているのだろう。今頃になって、そんなことに気づくのもおかしいが。
そして、藍が、健診のために病院に行く日がやって来た。佐渡が車に乗せて行き、警護のために、身元の確かな数人の信者が、別の二台の車で前後を挟んで行くという。
それでもまだ心配で、朝から食欲のない翔に、藍が言う。
「大丈夫よ。警護してくれるのは、みんなプロ並みの訓練を受けた人たちなんですって。もちろん、佐渡さんも、その一人よ」
いつの間にか藍は、佐渡とずいぶん親しくなっているようだ。基樹は、いくらか呆れたように、「藍って惚れっぽいんだな」と言っていた。
まさか、佐渡に対して恋愛感情を持っているわけではないだろうと思うが、翔も、基樹の言葉をはっきりとは否定出来ない。
増永は、滅多に、翔たちのプライベートな場所に顔を出すことはなかったが、庭や大広間で、たびたび藍と佐渡が言葉を交わしているのを見かけている。
それで、藍が楽しいのならばかまわないのだが、また今までのようなことになったらと、気がかりでもある。
「久しぶりに二人っきりで過ごせて、うれしいでしょう?」
ゆったりとしたコットンのワンピースを着た藍は、笑顔でそんなことを言いながら、佐渡の車の後部座席に乗り込む。警護の車は、ゲートの外で待機しているという。
「そう言う藍こそ、佐渡さんと二人で出かけられてうれしいんじゃないのか?」
基樹が、藍には聞こえないように、翔の耳元でぼそぼそとつぶやいた。久美は、翔たちから数歩下がったところに控えている。
藍が、ウィンドウを開けて言った。
「じゃあ、行って来るわね」
「気をつけて」
「えぇ。心配しないで待っていてね」
藍が、手を振ってウィンドウを閉めると、車は静かに動き出した。翔は、複雑な気持ちで見送る。
ゲートが閉まったのを見届けてから、久美が言った。
「よろしければ、お茶になさいませんか?」
翔が顔を見ると、基樹が言った。
「そうだな。なんだか、変に気疲れしたし」
「うん……」