第134話 意外な言葉
文字数 1,278文字
「翔は心配性だな」
庭の斜面に並んで立ち、緑が濃い山々を眺めながら、基樹が言った。ティータイムの後、藍は、昼寝をすると言って部屋に戻り、翔と基樹は、久しぶりに庭をぶらぶらしていた。
「でも、これからのことを考えると……」
藍が子供を産むまでにも、何があるかわからないし、子供を産むときにも、それこそ、病院に向かうときに、また反対派に襲われたりしたらと思うと、今から気が気ではないのだ。
「さすがに今度は、もっと警備を厳重にするだろう。それに、あのときは急だったけど、今度はたっぷり準備期間があるし、同じ轍は踏まないさ」
「でも、子供が生まれてからだって、何があるか……」
言いかけたところを、がばっと抱きしめられた。
「ちょっと、駄目だよ!」
翔は、あわてて基樹を突き放す。屋敷の中から、誰が見ているかわからない。
一歩下がりながら髪をかき上げた基樹は、にやにやしながら言った。
「翔が、いつまでもしょうもないことを言ってるからだよ。そんなことは、そのときになってみなくちゃわからないし、なるようにしかならないさ。
藍が大丈夫だって言っているんだから、俺たちは、出来る限りのことをすればいいんだよ」
「そうだけど……」
うつむく翔に、基樹が言った。
「なぁ、もう戻ろう。誰にも見られないところで、もっといちゃいちゃしようぜ」
翔が躊躇していると、屋敷に向かいかけた基樹が、振り返って言った。
「別に真昼間からセックスしようって言ってるわけじゃねぇよ。俺にも、たまには甘えさせてくれ」
「えっ?」
つい、まじまじと基樹の顔を見つめると、思いがけず、基樹が目を伏せた。
「この頃、翔は藍のことばかり……」
意外な言葉に、呆気に取られていると、基樹が、すねたように言った。
「なんだよ。俺のこと、馬鹿にしてるのかよ」
翔は、あわてて答える。
「そんなことないよ」
「じゃあ、なんで、そんなにやにや……」
「えっ、にやにやしてる?」
いつも、にやにやするのは基樹のほうなのだが。
「してるよ」
「してるのか……」
思わず、頬に手をやりながらつぶやくと、基樹が、怒ったように言った。
「だから、してるって言ってるだろ」
「してるなら、それは……」
「それは、なんだよ」
翔は、にっこり笑いながら答える。
「それは、基樹がかわいいと思ったからだよ」
「なっ……!」
基樹の顔が、真っ赤になった。考えてみれば、今まで、甘えたり頼ったりするのは、いつも翔のほうだった。
基樹は、いつも大らかに翔を受け止め、優しく包み込んでくれる。それが当たり前になっていたけれど、二人は同い年なのだ。
基樹だって、翔と同じように、心細いときも、寂しいときもあるだろう。ときには、誰かに甘えたいと思うことだって……。
言われてみれば、最近の自分は、藍の心配ばかりしていて、基樹に対して素っ気なかったかもしれない。
翔は、基樹の手を取った。
「行こう」
「いいのかよ」
「え?」
顔を見上げると、基樹が、つないだ手を示した。
「誰かが見ているかもしれないぞ」
「いいよ、このくらい」
翔は、その手を引くようにして、先に立って歩き出した。
庭の斜面に並んで立ち、緑が濃い山々を眺めながら、基樹が言った。ティータイムの後、藍は、昼寝をすると言って部屋に戻り、翔と基樹は、久しぶりに庭をぶらぶらしていた。
「でも、これからのことを考えると……」
藍が子供を産むまでにも、何があるかわからないし、子供を産むときにも、それこそ、病院に向かうときに、また反対派に襲われたりしたらと思うと、今から気が気ではないのだ。
「さすがに今度は、もっと警備を厳重にするだろう。それに、あのときは急だったけど、今度はたっぷり準備期間があるし、同じ轍は踏まないさ」
「でも、子供が生まれてからだって、何があるか……」
言いかけたところを、がばっと抱きしめられた。
「ちょっと、駄目だよ!」
翔は、あわてて基樹を突き放す。屋敷の中から、誰が見ているかわからない。
一歩下がりながら髪をかき上げた基樹は、にやにやしながら言った。
「翔が、いつまでもしょうもないことを言ってるからだよ。そんなことは、そのときになってみなくちゃわからないし、なるようにしかならないさ。
藍が大丈夫だって言っているんだから、俺たちは、出来る限りのことをすればいいんだよ」
「そうだけど……」
うつむく翔に、基樹が言った。
「なぁ、もう戻ろう。誰にも見られないところで、もっといちゃいちゃしようぜ」
翔が躊躇していると、屋敷に向かいかけた基樹が、振り返って言った。
「別に真昼間からセックスしようって言ってるわけじゃねぇよ。俺にも、たまには甘えさせてくれ」
「えっ?」
つい、まじまじと基樹の顔を見つめると、思いがけず、基樹が目を伏せた。
「この頃、翔は藍のことばかり……」
意外な言葉に、呆気に取られていると、基樹が、すねたように言った。
「なんだよ。俺のこと、馬鹿にしてるのかよ」
翔は、あわてて答える。
「そんなことないよ」
「じゃあ、なんで、そんなにやにや……」
「えっ、にやにやしてる?」
いつも、にやにやするのは基樹のほうなのだが。
「してるよ」
「してるのか……」
思わず、頬に手をやりながらつぶやくと、基樹が、怒ったように言った。
「だから、してるって言ってるだろ」
「してるなら、それは……」
「それは、なんだよ」
翔は、にっこり笑いながら答える。
「それは、基樹がかわいいと思ったからだよ」
「なっ……!」
基樹の顔が、真っ赤になった。考えてみれば、今まで、甘えたり頼ったりするのは、いつも翔のほうだった。
基樹は、いつも大らかに翔を受け止め、優しく包み込んでくれる。それが当たり前になっていたけれど、二人は同い年なのだ。
基樹だって、翔と同じように、心細いときも、寂しいときもあるだろう。ときには、誰かに甘えたいと思うことだって……。
言われてみれば、最近の自分は、藍の心配ばかりしていて、基樹に対して素っ気なかったかもしれない。
翔は、基樹の手を取った。
「行こう」
「いいのかよ」
「え?」
顔を見上げると、基樹が、つないだ手を示した。
「誰かが見ているかもしれないぞ」
「いいよ、このくらい」
翔は、その手を引くようにして、先に立って歩き出した。