第177話 晴

文字数 575文字

 季節は流れ、再び、山々は雪に覆われた。年が明け、藍は女の子を産んだ。
 出産のとき、藍は久美に付き添われ、佐渡の車で病院に行ったのだが、基樹とグレインとともに屋敷に残った翔は、知らせが来るまで、心配で、気が気ではなかった。
 出来ることならば一緒に行きたかったのだが、安全面を考慮して、財団に、屋敷で待機するように言われたのだ。もちろん、藍たちには警護がつけられた。
 
 グレインも、翔と同じ気持ちだったようで、二人して、そわそわと落ち着かない時間を過ごした。基樹だけは、終始冷静で、久美との連絡係になり、率先して食事の世話などもしてくれた。
 藍が無事に出産し、母子ともに健康だと知らせを受けたときには、グレインに抱きしめられ、そろって泣いてしまった。そんな二人を、基樹はにやにやしながら見ていた。
 
 
 藍たちが帰って来て、初めて赤ちゃんと対面したときにも、また二人して泣いた。泣き虫なところは、実は彼に似たのかもしれないと、少し思った。
「その年で、おじいちゃんと伯父さんか」
 そう言って、またしても基樹はにやにやしていたが、そんなことは、ちっとも気にならない。この世の中に、こんなにかわいい生き物がいるのかと感激し、夢中になった。もちろん、グレインも同じだ。
 みんなのアイドルとなった赤ちゃんは、藍によって、翔たちの母親の一字を取り、晴と名付けられた。
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