第149話 スーツ
文字数 785文字
翔が会見を拒否することなど出来るはずもなく、久美に、次の日の朝早くに屋敷を出て、ホテルに向かうことを言い渡された。結局それは、最初から決まっていたことなのだ。
だが翔は、不安でたまらなくて、もう食事が喉を通らない。
久美は、冷え切ってしまった朝食を作り直すと言ったのだが、藍が、このままでかまわないと言い、久美が、せめてこれだけはとコーヒーを淹れ直し、ようやく食事が始まった。
藍が、サラダのレタスをフォークで刺しながら、こちらを見て言う。
「翔、大丈夫よ。私と二人で会うんだもの。何も心配いらないわ」
「うん……」
基樹が言う。
「コーヒーだけでも飲めよ」
「うん……」
仕方なく、翔はコーヒーカップに手を伸ばす。毎度のことながら、自分が情けない。
眠れないまま迎えた翌朝、翔たちは玄関ホールにいた。
「よろしければ、途中でお召し上がりください」
そう言って久美が差し出した、食べ物が入っているらしいバスケットと、飲み物が入っているらしいポットを、基樹が受け取る。久美は、屋敷に残るのだ。
「久美も教祖様に会いたいんじゃないの?]
そう聞いた藍に、久美は言った。
「教祖様に直接お会い出来るのは、多分、翔さんと藍さんだけだと思いますよ。私は、みなさんの留守をお守りいたします。
お心遣い、ありがとうございます」
「そうなの……」
翔も藍も、久美が用意した真新しい服を着ている。藍が着た淡いブルーのワンピースは、とても上品で、藍によく似合っている。
だが、翔が着ているのは紺色のスーツで、我ながら似合っているとは思えないし、ネクタイも苦しくて、なんだか落ち着かない。基樹には「大学の入学式みたいだ」と言われたが、貧弱な体形の自分が着ると、せいぜい七五三か何かの仮装にしか見えない気がするのだ。
今日は、基樹もスーツを着ているのだが、上背も肩幅もある彼は、とても様になっている。
だが翔は、不安でたまらなくて、もう食事が喉を通らない。
久美は、冷え切ってしまった朝食を作り直すと言ったのだが、藍が、このままでかまわないと言い、久美が、せめてこれだけはとコーヒーを淹れ直し、ようやく食事が始まった。
藍が、サラダのレタスをフォークで刺しながら、こちらを見て言う。
「翔、大丈夫よ。私と二人で会うんだもの。何も心配いらないわ」
「うん……」
基樹が言う。
「コーヒーだけでも飲めよ」
「うん……」
仕方なく、翔はコーヒーカップに手を伸ばす。毎度のことながら、自分が情けない。
眠れないまま迎えた翌朝、翔たちは玄関ホールにいた。
「よろしければ、途中でお召し上がりください」
そう言って久美が差し出した、食べ物が入っているらしいバスケットと、飲み物が入っているらしいポットを、基樹が受け取る。久美は、屋敷に残るのだ。
「久美も教祖様に会いたいんじゃないの?]
そう聞いた藍に、久美は言った。
「教祖様に直接お会い出来るのは、多分、翔さんと藍さんだけだと思いますよ。私は、みなさんの留守をお守りいたします。
お心遣い、ありがとうございます」
「そうなの……」
翔も藍も、久美が用意した真新しい服を着ている。藍が着た淡いブルーのワンピースは、とても上品で、藍によく似合っている。
だが、翔が着ているのは紺色のスーツで、我ながら似合っているとは思えないし、ネクタイも苦しくて、なんだか落ち着かない。基樹には「大学の入学式みたいだ」と言われたが、貧弱な体形の自分が着ると、せいぜい七五三か何かの仮装にしか見えない気がするのだ。
今日は、基樹もスーツを着ているのだが、上背も肩幅もある彼は、とても様になっている。