第143話 危うさ

文字数 709文字

「ごめん。俺が余計なことを言ったせいだな」
 基樹が、頭を掻きながら言う。
 ティータイムの後、二人で庭に出たのだが、今日は日差しが強く、少し暑いくらいなので、玄関ポーチの隅に置かれたベンチに、並んで腰かけている。ポーチを覆う屋根の下は、日陰になっていて風通しもよく、居心地がいい。
 チョコレートケーキは、とてもおいしかったのだが、ティータイムは気まずい雰囲気のまま終わった。それに気づいているのかいないのか、藍だけが、終始楽しげにしゃべっていたが、会話が弾んだとは言い難い。
 
 基樹が、藍に嫌味を言いたくなる気持ちもわからなくはない。翔も、藍の態度には、どこか危うさを感じる。
「でも、藍は楽しそうだったから……」
「佐渡さんは、困っていたな」
「うん……」
「なぁ」
 基樹が、翔の肩に触れた。顔を上げると、基樹が、心配そうに翔の顔をのぞき込んでいる。

「場の空気を乱して悪かった。俺に偉そうなことを言う権利なんてないのに」
 翔は、首を横に振る。
「うぅん。僕も、藍のことが心配なんだ。
 もしかして、辛い気持ちを隠して、無理に明るく振舞っているんじゃないのかな。本当は、まだ、木崎って人のこと……」
「そうなのかな……」

 藍が何を考えているのか、本当のところは、よくわからない。だが、木崎と、その祖母のことには責任を感じているに違いないし、お腹の中には、彼の子供がいるのだ。
 そんな状態で、本気で佐渡に惹かれるなどということがあるだろうか。佐渡が、決して藍になびかないことを見越した上で、寂しさを紛らわせているということではないのか。
 もしもそうならば、藍が、とてもかわいそうだ。自分にはもう、藍を慰めることは出来ないのだろうか……。
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