第174話 なれそめ

文字数 987文字

「あははっ、よせよ。くすぐったい」
 基樹は、腹部に触れた翔の手を押さえ、笑いながら身をよじった。そしてそのまま、翔の手を引いて、裸の胸に抱き寄せる。
 翔は不満だ。自分はさっきまで、翔の体のあちこちを唇や指で刺激しては、翔の反応を見て楽しんでいたくせに……。
 
 翔の髪をまさぐりながら、基樹が言った。
「エディが心配していた」
 エディとは、グレインのことだ。彼は、翔と藍には自分のことをダディと、基樹には、ファーストネームの愛称であるエディと呼ばせている。
「何を?」
「翔がなかなか打ち解けてくれないって」

「それは……」
「あぁ。わかってるよ」
 基樹が宥めるように、優しく髪を撫でる。
「翔は、控えめな性格で無口なだけで、決して心を開いていないわけじゃないって言っておいた」
 自分が無口だとは思わないが、打てば響くような、気の利いたことを言えないのは確かだ。
 
 基樹が、翔の頭の上で、ふふっと笑う。
「エディにいろいろ聞かれた」
「何を?」
「俺と翔のなれそめを」
「え……。それで、話したの?」
「あぁ。別にしつこく聞かれたわけじゃない。
 軽く、さしつかえなければっていう感じで聞かれたんだ。でも、話してしまった」
 
「どうして?」
「うーん。どうしてかな……」
 しばらく考えてから、基樹が言った。
「誰かに聞いてほしかったのかもしれない」
 それにしても、翔の実の父親に、そんなことを話すなんて……。
「それで、なんて話したの?」

 基樹は、翔から体を離してあお向けになった。その顔は、にやけている。
「翔のことがとても気になって、心配でたまらなくて、放っておけなかった。怪我をしながら会いに来てくれたことが、すごくうれしくて、ずっとそばにいて守りたいと思うようになった。
 ……って言った」
 顔が熱くなる。基樹がこちらを見ているのがわかったが、恥ずかしくて視線を合わせられない。
 
「まずかったか?」
「そんなことはないけど……。でも、恥ずかしい」
「大丈夫だ。見かけによらず、めっちゃエロいところがいいなんて一言も言っていないから」
 思わず顔を見ると、基樹は、まだにやにやしている。
 
「もう! エロくなんか……」
 口を尖らせてにらむと、頬の肉をつままれた。
「じゃあ、さっきのあれはなんなんだよ。さっきのあの……」
「だって、あれは基樹が……」
「言い訳すんな」
 真顔になった基樹が、ゆっくりと覆いかぶさって来た。
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