第116話 当分の間
文字数 1,298文字
二人は、藍の話を呆然として聞いていた。やがて、真佐が口を開いた。
「あなたの言うことも、もっともだと思うわ。私は部外者だから率直に言わせてもらうけれど、教団の教義もやり方も、長く内紛が続いて死者が出ていることから見ても、とてもまともな宗教だとは思えないわ。
息子夫婦が命を落としたことにも憤りを感じるし、かと言って、陸人がやったことも、とてもほめられたことじゃないわ」
そして、その目から、あらわになっていた怒りの色を、ふと消して言う。
「あなたたち双子も、教団に利用されて自由を奪われた被害者ね。それに、いくつかの間違いを犯しているものの、両親を教団に殺された陸人も」
「おばあちゃん、僕は、どうすれば……」
すがるように問いかける陸人に、真佐はぴしゃりと言った。
「しっかりしなさい。こういう事態を招いたのは、あなたなのよ。自分がどうするべきか、自分の頭でよく考えなさい」
うなだれる陸人を尻目に、真佐は、優しく言った。
「藍さん、とりあえず当分の間は、どうぞここにいらして。私に出来る限りのことはさせていただくわ。
私は、元々あまり近所付き合いをしていないし、この病院は廃業しているから、あなたが外に出ない限り、人に気づかれることはないと思うわ。
でも、自由がないという意味では、今までとあまり変わらないと思うけれど、それでもいいの?」
「はい……」
うなずきながら、藍は思う。また人に迷惑をかけ、傷つけることになるのだろうか。でも、今の自分には、ほかにどうすればいいかわからないのだ。
真佐が、ふふっと笑った。
「もういい年になったから、リタイアして、旅行でもして悠々自適に暮らそうと思っていたのよ。でも、そういうわけはにいかなくなったわね」
「すいません」
藍が思わず謝ると、真佐は、今度は声を上げて笑った。
「あなたが謝ることないのよ。まさか、あなたみたいに若くてきれいなお嬢さんとお近づきになれると思っていなかったから、とてもうれしいわ。
いやじゃなければ、孤独な年寄りの相手をしてくださいね」
「そんな……」
すらりとして姿勢がよく、ズバズバとものを言う真佐に、年寄りという呼称は似つかわしくない。
陸人が、咎めるように言う。
「おばあちゃん、普通ならば藍さんは、誰でも簡単に近づいたり、口を聞いたり出来るような人じゃないんだよ」
「そんなこと、わかっているわよ」
藍は、陸人に向かって言う。
「いいの。教団から離れれば、私なんて、ただの小娘よ」
陸人が、ブンブンと首を横に振った。
「そんなことはありません。藍さんは、気高くて美しくて、それに……」
陸人の真剣な表情に、藍も思わず笑ってしまった。
「さて」
真佐が立ち上がりながら言った。
「そうと決まったら、私はこれから、藍さんの衣類や日用品を買いに行って来るわ。好みに合わないかもしれないけれど、我慢してね」
「それなら、僕も一緒に……」
そう言いかけた陸人に、真佐が言った。
「いいえ。あなたは、うちにいなさい。これからは、あなたも極力家から出ないようにするのよ。
それが、あなたのためであるのと同時に、藍さんを守るためでもあるの。わかったわね?」
「あなたの言うことも、もっともだと思うわ。私は部外者だから率直に言わせてもらうけれど、教団の教義もやり方も、長く内紛が続いて死者が出ていることから見ても、とてもまともな宗教だとは思えないわ。
息子夫婦が命を落としたことにも憤りを感じるし、かと言って、陸人がやったことも、とてもほめられたことじゃないわ」
そして、その目から、あらわになっていた怒りの色を、ふと消して言う。
「あなたたち双子も、教団に利用されて自由を奪われた被害者ね。それに、いくつかの間違いを犯しているものの、両親を教団に殺された陸人も」
「おばあちゃん、僕は、どうすれば……」
すがるように問いかける陸人に、真佐はぴしゃりと言った。
「しっかりしなさい。こういう事態を招いたのは、あなたなのよ。自分がどうするべきか、自分の頭でよく考えなさい」
うなだれる陸人を尻目に、真佐は、優しく言った。
「藍さん、とりあえず当分の間は、どうぞここにいらして。私に出来る限りのことはさせていただくわ。
私は、元々あまり近所付き合いをしていないし、この病院は廃業しているから、あなたが外に出ない限り、人に気づかれることはないと思うわ。
でも、自由がないという意味では、今までとあまり変わらないと思うけれど、それでもいいの?」
「はい……」
うなずきながら、藍は思う。また人に迷惑をかけ、傷つけることになるのだろうか。でも、今の自分には、ほかにどうすればいいかわからないのだ。
真佐が、ふふっと笑った。
「もういい年になったから、リタイアして、旅行でもして悠々自適に暮らそうと思っていたのよ。でも、そういうわけはにいかなくなったわね」
「すいません」
藍が思わず謝ると、真佐は、今度は声を上げて笑った。
「あなたが謝ることないのよ。まさか、あなたみたいに若くてきれいなお嬢さんとお近づきになれると思っていなかったから、とてもうれしいわ。
いやじゃなければ、孤独な年寄りの相手をしてくださいね」
「そんな……」
すらりとして姿勢がよく、ズバズバとものを言う真佐に、年寄りという呼称は似つかわしくない。
陸人が、咎めるように言う。
「おばあちゃん、普通ならば藍さんは、誰でも簡単に近づいたり、口を聞いたり出来るような人じゃないんだよ」
「そんなこと、わかっているわよ」
藍は、陸人に向かって言う。
「いいの。教団から離れれば、私なんて、ただの小娘よ」
陸人が、ブンブンと首を横に振った。
「そんなことはありません。藍さんは、気高くて美しくて、それに……」
陸人の真剣な表情に、藍も思わず笑ってしまった。
「さて」
真佐が立ち上がりながら言った。
「そうと決まったら、私はこれから、藍さんの衣類や日用品を買いに行って来るわ。好みに合わないかもしれないけれど、我慢してね」
「それなら、僕も一緒に……」
そう言いかけた陸人に、真佐が言った。
「いいえ。あなたは、うちにいなさい。これからは、あなたも極力家から出ないようにするのよ。
それが、あなたのためであるのと同時に、藍さんを守るためでもあるの。わかったわね?」