第65話 昼寝

文字数 739文字

「あー……」
 翔は、食卓の椅子を引いてどさりと座る。滅多に運動することなどないので、とても疲れた。三人でじゃれ合って、とても楽しかったけれど。
「何か飲むか?」
 基樹が、キッチンの小ぶりな冷蔵庫を開ける。そこには、ペットボトルに入った飲み物や、ヨーグルトやゼリーなどの、ちょっとした食べ物が入っている。
 
「うん」
「何がいい?」
「じゃあ、お茶」
 基樹は、ボトルを二本取り出し、一本を翔の前に置いた。手に持った炭酸飲料のボトルのキャップを外し、ごくごくと飲みながら向かい側に座る。
「疲れたか?」
「うん、ちょっとね。基樹は疲れてないの?」

 基樹は、早くも炭酸飲料を飲み干し、テーブルの上に、トンとボトルを置いた。
「あぁ、久しぶりに体を動かして、すごく気持ちよかったよ。学校では、毎日サッカーボールを追いかけて走り回っていたからな」
 あ……。あのまま学校に通っていれば、今頃もきっと……。ちくりと胸が痛んで目を伏せると、基樹が、翔の手からペットボトルを取って、プシュッとキャップを開けた。
 
「そんな顔するなよ。俺は自分で選んで一緒に来たんだし、後悔も未練もない。ほら、飲めよ」
 そう言って、翔の前にボトルを置く。
「ありがとう」
 自分が気にすることで、返って基樹にいやな思いをさせてしまうのかもしれない。基樹がそう言ってくれているのだから、いちいち気に病むのはやめなければ。
 そう思い、少し無理をして笑って見せてから、ボトルを口に運んだ。
 
 
 その後、翔はベッドに入って昼寝をした。途中でふと目を覚まして横を見ると、自分のベッドに腰かけて、翔の本に真剣な顔で目を落としている基樹の姿が見えた。
 その様子が微笑ましくて、温かい気持ちになって、翔は再び目を閉じた。もう、自分は孤独じゃない……。
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