第156話 偽りない気持ち
文字数 1,422文字
ドアがノックされた。野本が、ドアを開けに立つ。
突然呼び出された基樹は、緊張と戸惑いの入り混じった表情を浮かべながら入って来た。
「モトキ」
笑顔を浮かべた教祖が、大股で近づいて行って、基樹に握手を求める。基樹が、おずおずと右手を差し出すと、教祖は、両手で握って上下に振った。
まだ手を握られたまま、視線をさ迷わせた基樹は、翔に目を止めてつぶやく。
「部屋にいたら、佐渡さんに連絡が入って、急いで行くようにって言われて……」
翔も、まだ茫然としながら答える。
「基樹のことを話したら、一緒に食事をしようって……」
部屋にダイニングテーブルが運び込まれ、その上に豪華な料理の数々が並ぶ。テーブルの短辺に教祖が座り、長辺に向かい合うように翔と藍、翔の隣に基樹が座った。
当然のことながら、通訳のため野本も同席する。教祖は、さっきの会話も、ここでの会話も、プライベートなことなので、彼は決して口外しないと確約し、野本も、それに同意した。
教祖は白ワインを、ほかの四人はスパークリングウォーターのグラスを掲げて乾杯した。教祖にうながされ、みな、押し黙ったまま、ぎこちなく食事を始める。
翔は、相変わらず食欲がないが、形だけ手を付ける。
教祖だけが、食べながら、にこやかに話し続けたが、会話は弾まないまま、食事も終盤に差し掛かった。教祖が、見回すようにしながら話し始める。
――今日は、君たちに会うことが出来て、とてもうれしかった。この十数年、ずっと翔と藍にに会いたいと思い続けていたが、今日、ようやく願いが叶った。
それとともに、今まで二人に、とても辛い思いをさせていたことも、よくわかった。ところで、
「モトキ」
突然、名前を呼ばれ、基樹は、はっとしたように教祖の顔を見る。
――翔は、不本意ながら、君を教団に引き入れてしまったことに心を痛めている。そのことについて、君の偽りない気持ちが聞きたい。
もし、ここで話しにくいのであれば、席を移してもいいが。
「いえ。ここでかまいません」
基樹は、一瞬、隣にいる翔の顔を見つめてから、再び、教祖を真っ直ぐに見て言った。
「翔は、俺にとって大切な存在です。翔のそばにいるために、今までの生活を捨てることに、未練も迷いもありませんでした。
ずいぶん前から、孤独でつまらない毎日に、あきあきしていましたから」
それは、翔に対しても、今まで何度も言ってくれた言葉だった。それでも、胸が熱くなって、涙が込み上げる。
基樹は続ける。
「今は、翔と藍、それに、久美さんや佐渡さんと暮らしていて、毎日、とても充実しています。これからも、ずっとそばにいて、翔のことも、翔が大切にしているすべてのものも、命を懸けて守りたいと思っています」
涙がこぼれてしまい、翔は、頬をぬぐいながら、あわててうつむいた。
――その言葉を聞いて、とても安心したよ。君がいてくれれば、翔も藍も安心だ。
「ショウ」
顔を上げると、教祖が微笑みかけている。
――心配いらない。基樹は、本心から、そう言ってくれていると思うよ。
言われたそばから、ぼろぼろと涙があふれ出し、手だけではどうにもならなくなり、翔は、ナプキンで顔をぬぐった。そんな自分が、とても恥ずかしい。
――とても名残惜しいが、私は、この後、日本を離れなければならない。なるべく早く、また君たちと会いたいが、いつになるかわからない。
私に、何か言いたいことがあれば、遠慮せずに言ってくれないか?
突然呼び出された基樹は、緊張と戸惑いの入り混じった表情を浮かべながら入って来た。
「モトキ」
笑顔を浮かべた教祖が、大股で近づいて行って、基樹に握手を求める。基樹が、おずおずと右手を差し出すと、教祖は、両手で握って上下に振った。
まだ手を握られたまま、視線をさ迷わせた基樹は、翔に目を止めてつぶやく。
「部屋にいたら、佐渡さんに連絡が入って、急いで行くようにって言われて……」
翔も、まだ茫然としながら答える。
「基樹のことを話したら、一緒に食事をしようって……」
部屋にダイニングテーブルが運び込まれ、その上に豪華な料理の数々が並ぶ。テーブルの短辺に教祖が座り、長辺に向かい合うように翔と藍、翔の隣に基樹が座った。
当然のことながら、通訳のため野本も同席する。教祖は、さっきの会話も、ここでの会話も、プライベートなことなので、彼は決して口外しないと確約し、野本も、それに同意した。
教祖は白ワインを、ほかの四人はスパークリングウォーターのグラスを掲げて乾杯した。教祖にうながされ、みな、押し黙ったまま、ぎこちなく食事を始める。
翔は、相変わらず食欲がないが、形だけ手を付ける。
教祖だけが、食べながら、にこやかに話し続けたが、会話は弾まないまま、食事も終盤に差し掛かった。教祖が、見回すようにしながら話し始める。
――今日は、君たちに会うことが出来て、とてもうれしかった。この十数年、ずっと翔と藍にに会いたいと思い続けていたが、今日、ようやく願いが叶った。
それとともに、今まで二人に、とても辛い思いをさせていたことも、よくわかった。ところで、
「モトキ」
突然、名前を呼ばれ、基樹は、はっとしたように教祖の顔を見る。
――翔は、不本意ながら、君を教団に引き入れてしまったことに心を痛めている。そのことについて、君の偽りない気持ちが聞きたい。
もし、ここで話しにくいのであれば、席を移してもいいが。
「いえ。ここでかまいません」
基樹は、一瞬、隣にいる翔の顔を見つめてから、再び、教祖を真っ直ぐに見て言った。
「翔は、俺にとって大切な存在です。翔のそばにいるために、今までの生活を捨てることに、未練も迷いもありませんでした。
ずいぶん前から、孤独でつまらない毎日に、あきあきしていましたから」
それは、翔に対しても、今まで何度も言ってくれた言葉だった。それでも、胸が熱くなって、涙が込み上げる。
基樹は続ける。
「今は、翔と藍、それに、久美さんや佐渡さんと暮らしていて、毎日、とても充実しています。これからも、ずっとそばにいて、翔のことも、翔が大切にしているすべてのものも、命を懸けて守りたいと思っています」
涙がこぼれてしまい、翔は、頬をぬぐいながら、あわててうつむいた。
――その言葉を聞いて、とても安心したよ。君がいてくれれば、翔も藍も安心だ。
「ショウ」
顔を上げると、教祖が微笑みかけている。
――心配いらない。基樹は、本心から、そう言ってくれていると思うよ。
言われたそばから、ぼろぼろと涙があふれ出し、手だけではどうにもならなくなり、翔は、ナプキンで顔をぬぐった。そんな自分が、とても恥ずかしい。
――とても名残惜しいが、私は、この後、日本を離れなければならない。なるべく早く、また君たちと会いたいが、いつになるかわからない。
私に、何か言いたいことがあれば、遠慮せずに言ってくれないか?