第61話 運動器具

文字数 767文字

 翌日の朝食のときに、基樹が久美に向かって言った。
「俺、ほしいものがあるんですけど、お願いしてもいいですか?」
「はい。なんでしょう」
「部屋に、何か運動器具がほしいんです。それから、屋上に、バスケットボールのゴールを置いてもらうなんて、無理ですかね?」
「はぁ。即答は出来ませんが、さっそく上層部に取り次ぎます」
 上層部とは、教団の日本支部の幹部のことらしい。この殺風景で巨大な建物は、日本支部の所有物なのだ。
 
 それがなんという名前なのか、翔にはわからないが、次の日には増永が、組み立て式の、懸垂や腹筋運動が出来る、パイプとベンチが組み合わさった器具を台車に載せて持って来た。
 すぐに、増永と基樹とで組み立て始める。増永が言う。
「バスケットボールのゴールは、二、三日のうちに設置されることになっていますので、それまでお待ちください」
「なんかすいません」
「いえ」

 翔は、その様子をベッドに腰かけて見守る。ずっとスポーツをやって来た基樹は、体を動かさないと気持ちが悪いのだと言う。
 翔自身は、スポーツは苦手だし、あまり体力もないので、部屋でじっとしていることはそれほど苦痛ではない。もしも一人だったならば耐えられないかもしれないが、基樹がいる今は、まだしばらくは平気な気がする。
 ただ、バスケットボールのゴールまで設置してくれるということは、新しい住まいに移るまでには、まだ長い時間を要するのだろう。それを思うと、少し気が重い。
 
 組み立て終わると、増永が、翔に向かって言った。
「翔さんは、何か欲しいものはありませんか?」
「そうだな……」
 翔は考える。
「何か、読むものとか」
「どんなものがお好みですか?」
 こういう状況の中で、あまり深刻なものや、心を揺さぶられるようなものは読みたくない。
「宇宙の神秘とか、歴史とかかな」
「承知いたしました」
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