第164話 封筒

文字数 975文字

 翔と藍が教祖と対面した後、教祖と側近、一部の上層部の信者の間で話し合いが続けられて来た。その中には、もちろん日本支部の幹部も含まれている。
 巨大化した反対派は、今では外部からは主流派とみなされ、教団は、今や世間的には過激なカルト教団と認識されている。実際に、反対派は犯罪行為を犯し、今では、それに対抗するために、一部の主流派でさえ犯罪に手を染めている。
 一刻も早く、この流れを止める方法は、解散しかないという結論に至った。
 
 だが、ただ解散するだけでは、大きな混乱を招き、新たな争いが起こることは火を見るより明らかだ。そこで、水面下で準備を進め、解散と同時に、各国の司法の手を借り、速やかに犯罪行為を抑え込むことにした。
 すでに日本でも、警察が動き出している。日本支部にも警察関係者が多数在籍しており、決して簡単なことではないが、いずれは過激な反対派も鎮圧されることだろう。
 
 また、解散と同時に、教団の主流派を母体とする、被害者救済のための財団が設立された。財団の本部は日本にあり、代表は、教祖と翔たちの対面の場に同席した野本が務める。
「私と箕部さんは、本日付で財団の職員となりました」
 佐渡の言葉に、一歩後ろに立っていた久美がうなずく。
 
 久美が言う。
「今後しばらくは、大変な騒ぎになることが予想されます。安全のため、翔さんと藍さん、それに藤崎さんは、当分の間は、ここでこのままお暮しになっていただきます。
 みなさんのことは、財団が責任をもってお守りいたします。もちろん、この先も今まで通り、私と佐渡さんが、お世話させていただきます」
 
「それから……」
 佐渡が、基樹に歩み寄って、大判の封筒を差し出した。
「なんですか?」
 基樹は、椅子に座ったまま、佐渡を見上げる。
「教団でお預かりしていた、藤崎さんのスマートフォンです」
 基樹が洋館に来たときに、増永に没収されたものだ。
 
「お父上から、藤崎さんの捜索願が出されています。このたびの教団の解散にともない、警察から、お父上に説明がなされていますが、どうぞ藤崎さんからも連絡なさってください。
 ただ、説明しました理由から、実際にお会いになるのは、しばらくお待ちいただきたいのです。お父上にも、そのようにお願いしていますが」
「はぁ……」
 曖昧にうなずきながら、基樹が手を差し出すと、佐渡が封筒を渡した。
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