第28話 異変
文字数 716文字
翌週から、藍はまた、学校に通い始めた。表向きは、すべてが元に戻ったように見えた。
だが、もう二度と、翔と藍が体を重ね合うことはなかったし、二人が鮎川の話をすることもなかった。以前のように微笑み合い、他愛ない言葉をかわしながら、心は、遠く離れてしまった。
いや、離れたのは、藍の心だ。翔は、相変わらず藍のことを思い、部屋で一人涙する夜が続いた。
藤崎は、顔を合わせれば、今まで通りに挨拶をしてくれるものの、それ以上、話しかけて来ることはなくなった。これでいいのだと翔は思う。
彼がいいやつなのはわかった。だからこそ、これ以上近づかないほうがいい。
これからも、自分はずっと、誰とも心を通わせることなく生きて行くしかないのだ。そういう運命のもとに生まれたのだから。
孤独だが、再び静かな時間が流れ、日常が戻った頃、突然それは起こった。
日付が変わった頃、翔は眠れないまま、暗い部屋のソファで膝を抱え、カーテンの隙間から窓の外を見ていた。月も星もなく、ただ墨色の夜空の下に、森の木々が黒々とうずくまっている。
パジャマを着ただけの体が少し肌寒いが、ベッドまで行くのも億劫だ。そう思って、冷たい窓ガラスに額をつけたとき、南側の石塀の辺りで、何かが動いたような気がした。
はっとして目を凝らしたときには、もう何も見えなかった。気のせいか……。
それを機に、翔は、ようやく重い腰を上げた。眠れなくてもいいからベッドに入ろう。
そう思い、布団にもぐって体を丸めていると、脳裏に様々な映像が浮かんでは消える。顔を覆って泣く藍、図書準備室の壁を埋め尽くす書架、翔を見下ろす藤崎の顔……。
そうしているうちに、いつの間にか眠ってしまった。
だが、もう二度と、翔と藍が体を重ね合うことはなかったし、二人が鮎川の話をすることもなかった。以前のように微笑み合い、他愛ない言葉をかわしながら、心は、遠く離れてしまった。
いや、離れたのは、藍の心だ。翔は、相変わらず藍のことを思い、部屋で一人涙する夜が続いた。
藤崎は、顔を合わせれば、今まで通りに挨拶をしてくれるものの、それ以上、話しかけて来ることはなくなった。これでいいのだと翔は思う。
彼がいいやつなのはわかった。だからこそ、これ以上近づかないほうがいい。
これからも、自分はずっと、誰とも心を通わせることなく生きて行くしかないのだ。そういう運命のもとに生まれたのだから。
孤独だが、再び静かな時間が流れ、日常が戻った頃、突然それは起こった。
日付が変わった頃、翔は眠れないまま、暗い部屋のソファで膝を抱え、カーテンの隙間から窓の外を見ていた。月も星もなく、ただ墨色の夜空の下に、森の木々が黒々とうずくまっている。
パジャマを着ただけの体が少し肌寒いが、ベッドまで行くのも億劫だ。そう思って、冷たい窓ガラスに額をつけたとき、南側の石塀の辺りで、何かが動いたような気がした。
はっとして目を凝らしたときには、もう何も見えなかった。気のせいか……。
それを機に、翔は、ようやく重い腰を上げた。眠れなくてもいいからベッドに入ろう。
そう思い、布団にもぐって体を丸めていると、脳裏に様々な映像が浮かんでは消える。顔を覆って泣く藍、図書準備室の壁を埋め尽くす書架、翔を見下ろす藤崎の顔……。
そうしているうちに、いつの間にか眠ってしまった。