第165話 テーブル

文字数 763文字

 ひと通り説明をすると、佐渡と久美は退出し、基樹も、父親に連絡するために、自分の部屋に戻った。翔と藍だけが勉強室に残された。
 二人は、まだ茫然としながら、顔を見合わせる。
「なんだか狐につままれたみたいね」
「うん。一応、今の状況は理解したつもりだけど、まだ実感がわかない」
「そうね。夢を見ているみたい……」


 その後、二人も、それぞれの部屋に引き上げた。翔はベッドに腰を下ろし、ぼんやりと考える。
 あの日、教祖は、翔たちの幸せと安全を考えると言っていた。教団の解散も、そのことの一部なのだろうか。それとも、たまたま時期が重なっただけか。
 基樹は、これからどうするつもりなのだろう。基樹を一人置いて、仕事で海外に行ったきりだと言っていた父親は、基樹の捜索願を出していたという。
 教団は解散したのだから、彼が翔と一緒にいなければいけない理由は、もうない。彼は、いったい……。
 
 
 昼食の席では、それぞれが物思いにふけり、ほとんど会話もなかった。翔は、基樹が父親とどんな話をしたのか気になったが、彼が何も言わないので、聞かなかった。
 あまり食欲はないが、喉を通らないというほどでもない。自分たちが、突然、ひどく宙ぶらりんになったようで、何をどう考えればいいのかもよくわからない。
 
 食事が終わり、藍に続いてダイニングルームから出ようとドアに向かいかけたとき、基樹が耳元で言った。
「今から、翔の部屋に行ってもいいか?」
 振り仰ぐと、基樹がまっすぐに見つめている。
「うん……」


 部屋に戻ると、テーブルに向かい合って座った。基樹が、テーブルの上で両手の指を組んで言う。
「父親との電話のことだけど」
 翔は、ごくりと唾を飲み込む。基樹が言う。
「翔に一番に話したいと思って」
「……うん」
 翔がうなずくと、基樹は、かすかに笑顔を見せてから話し出した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み