第150話 ホテル

文字数 796文字

「そろそろ参りましょうか」
 佐渡にうながされ、車に乗り込む。翔と藍は、学校に通っていた頃のように、後部座席に並んで、基樹は、助手席に。
 久美に見送られ、車が動き出す。佐渡が、リモコンを操作して、ゲートを開ける。
 ゲートの向こうに、待機している二台の警護の車が見える。
 
 
 翔たちが乗った車は、警護の車に前後を挟まれ、ホテルの地下駐車場に入った。車を停めながら、佐渡が言う。
「お二人には、いったん用意された部屋に入っていただきます。そこで一休みしていただいてから、教祖様にお会いになっていただきます」
 思わず、藍の顔を見ると、藍も、硬い表情で翔を見つめ返した。緊張感が一気に高まり、翔は、心臓の鼓動が速まるとともに、軽い吐き気を覚える。
 
 車のエンジンを止めると、佐渡は素早く車を降りて、翔の側のドアを開けた。同じように基樹も、藍の側のドアを開ける。
 翔は、シートベルトを外し、のろのろと車を降りた。降り立った際に、少しよろけると、すかさず佐渡が体を支えてくれた。
「大丈夫ですか」
「うん……」

 翔たちは、周りを警護の信者たちに囲まれるようにして、エレベーターに乗った。
エレベーターが上昇を始め、階数表示を見上げていると、藍が、そっと手を握って来た。
 やはり、藍も不安なのだ。いつもは饒舌な彼女だが、今日は朝から口数が少ない。
 
 エレベーターのドアが開くと、ダークスーツを着た男たちが待ち構えていて、一瞬ぎくりとするが、彼らも信者らしい。佐渡たちと目礼を交わすと、部屋の前まで先導してくれた。
 男の一人が、カードキーでドアを開け、脇にしりぞく。佐渡が言った。
「ここで、しばらくお休みになってください。後ほど、お迎えに上がります」
 翔は、基樹の顔を見る。彼も、佐渡たちと行ってしまうのだろうか。
 
 だが、基樹は微笑みながら言った。
「俺も一緒に休ませてもらうよ」
 翔は、ほっと息を吐く。よかった……。
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