第85話 涙
文字数 928文字
階段を駆け上がり、自分の部屋に飛び込んで、そのままベッドに倒れ込む。後から後から涙があふれ出て、嗚咽が漏れる。
この一ヶ月、基樹のことを忘れたことは一日もなかった。会いたくて会いたくてたまらなかった。
基樹に見てほしくて、写真もたくさん撮ったし、絵も描いたのに……。
やがて、夕食の時間になり、インターフォンが鳴ったが、無視して、ベッドの上でうずくまっていた。まだ涙が止まらない。
どうせ自分は泣き虫だ。辛いことばかりで、泣かないではいられない……。
しばらくして、ドアをノックする音がした。無視していると、声がした。
「翔、入るわよ」
藍だ。ベッドに横になったまま、スカートの裾を揺らして近づいて来る姿を見ていると、藍は、ベッドのそばにひざまずいた。
翔の、涙に濡れた頬に触れながら言う。
「基樹くんから聞いたわ。翔を傷つけたって言って、めずらしく、しょんぼりしていたわよ」
「僕だって、傷ついたよ」
「翔の気持ちはよくわかるわ。でも、基樹くんは、そういう意味で言ったんじゃないと思うけど」
「じゃあ、どういう意味?」
藍に絡むのはお門違いだとわかっているが、言わずにいられない。
「それだけの覚悟を持って、翔を大切にしたいっていうことじゃないのかしら」
「だからって、自分の意見も言わず、なんでも言いなりになってもらっても、ちっともうれしくないよ」
藍が、困ったように微笑む。
「基樹くんは、そんなことはしないと思うけど」
「……ごめん。藍に当たってもしょうがないのに……」
自分のことがいやになって、翔は、顔を歪めて泣く。藍が、髪を撫でながら言う。
「いいのよ。でも、基樹くんは、悪い意味で言ったんじゃないと思うの。だから、仲直りしてくれたらうれしいわ」
どうしていいかわからない。涙が止まらない。
「ねぇ、一緒にご飯にしましょうよ。基樹くんも待っているわ」
「食べたくない。食べられないよ……」
駄々をこねているようで情けないが、胸が苦しくて、食べられそうにないのは本当だ。
「仕方がないわね。でも、落ち着いたら、下に来て。待っているから」
藍は、もう一度微笑んでから、部屋を出て行った。そう言われたものの、めそめそと泣いているうちに、いつの間にか眠ってしまった。
この一ヶ月、基樹のことを忘れたことは一日もなかった。会いたくて会いたくてたまらなかった。
基樹に見てほしくて、写真もたくさん撮ったし、絵も描いたのに……。
やがて、夕食の時間になり、インターフォンが鳴ったが、無視して、ベッドの上でうずくまっていた。まだ涙が止まらない。
どうせ自分は泣き虫だ。辛いことばかりで、泣かないではいられない……。
しばらくして、ドアをノックする音がした。無視していると、声がした。
「翔、入るわよ」
藍だ。ベッドに横になったまま、スカートの裾を揺らして近づいて来る姿を見ていると、藍は、ベッドのそばにひざまずいた。
翔の、涙に濡れた頬に触れながら言う。
「基樹くんから聞いたわ。翔を傷つけたって言って、めずらしく、しょんぼりしていたわよ」
「僕だって、傷ついたよ」
「翔の気持ちはよくわかるわ。でも、基樹くんは、そういう意味で言ったんじゃないと思うけど」
「じゃあ、どういう意味?」
藍に絡むのはお門違いだとわかっているが、言わずにいられない。
「それだけの覚悟を持って、翔を大切にしたいっていうことじゃないのかしら」
「だからって、自分の意見も言わず、なんでも言いなりになってもらっても、ちっともうれしくないよ」
藍が、困ったように微笑む。
「基樹くんは、そんなことはしないと思うけど」
「……ごめん。藍に当たってもしょうがないのに……」
自分のことがいやになって、翔は、顔を歪めて泣く。藍が、髪を撫でながら言う。
「いいのよ。でも、基樹くんは、悪い意味で言ったんじゃないと思うの。だから、仲直りしてくれたらうれしいわ」
どうしていいかわからない。涙が止まらない。
「ねぇ、一緒にご飯にしましょうよ。基樹くんも待っているわ」
「食べたくない。食べられないよ……」
駄々をこねているようで情けないが、胸が苦しくて、食べられそうにないのは本当だ。
「仕方がないわね。でも、落ち着いたら、下に来て。待っているから」
藍は、もう一度微笑んでから、部屋を出て行った。そう言われたものの、めそめそと泣いているうちに、いつの間にか眠ってしまった。