第103話 久美
文字数 761文字
久美は、お茶の用意をするためにキッチンに去り、藍と二人きりになった。いつもならば、真っ先に口を開いて、あれこれと話をしてくれる藍が、今はまだ、一言も言葉を発していない。
それで翔は、廊下の先の大広間を指して言った。
「行こうか」
藍がうなずき、肩を並べて歩き出す。
ソファセットのいつもの定位置に、二人並んで座った。まだ何も言ってくれない藍に、翔はぎこちなく話しかける。
「その髪……」
「えぇ、切ったのよ。こんなに短くしたのは初めて」
「そうだね」
小さい頃からずっと、藍の髪は長かった。増永に抱えられて屋敷を出たときには、ウェストに届きそうな長さだった。
翔は、藍の柔らかく波打つ長い髪が好きだったのだけれど。
それきり言葉がみつからず、二人して黙り込んでいると、荷物を運び終えた基樹が入って来た。向かい側のソファに、どさりと座りながら言う。
「どうしたんだよ。久しぶりに会えたっていうのに、二人とも、お通夜みたいな顔してうつむいて。
まぁ、積もる話があり過ぎて、何から話せばいいかわからないか」
そこに、ワゴンを押して久美が入って来た。
「私もご一緒させていただいてよろしいですか?」
すかさず、基樹が、自分の横を示して言う。
「もちろんです。どうぞここに」
「ありがとうございます」
久美は、紅茶とパウンドケーキをサーブしてから、ソファの端に膝をそろえて腰かけた。
「このケーキは、冷凍しておいたものを解凍したんですよ。みなさん、どうぞ召し上がってください」
そして、それぞれがカップに手を伸ばしたところで、おもむろに口を開く。
「今回のことは、大変痛ましいことでした。藍さんが乗った救急車を襲ったのは、やはり反対派の者たちでした。
ほかの信者たちとともに麓のログハウスで暮らしていた木崎は、反対派のスパイだったのです。」
それで翔は、廊下の先の大広間を指して言った。
「行こうか」
藍がうなずき、肩を並べて歩き出す。
ソファセットのいつもの定位置に、二人並んで座った。まだ何も言ってくれない藍に、翔はぎこちなく話しかける。
「その髪……」
「えぇ、切ったのよ。こんなに短くしたのは初めて」
「そうだね」
小さい頃からずっと、藍の髪は長かった。増永に抱えられて屋敷を出たときには、ウェストに届きそうな長さだった。
翔は、藍の柔らかく波打つ長い髪が好きだったのだけれど。
それきり言葉がみつからず、二人して黙り込んでいると、荷物を運び終えた基樹が入って来た。向かい側のソファに、どさりと座りながら言う。
「どうしたんだよ。久しぶりに会えたっていうのに、二人とも、お通夜みたいな顔してうつむいて。
まぁ、積もる話があり過ぎて、何から話せばいいかわからないか」
そこに、ワゴンを押して久美が入って来た。
「私もご一緒させていただいてよろしいですか?」
すかさず、基樹が、自分の横を示して言う。
「もちろんです。どうぞここに」
「ありがとうございます」
久美は、紅茶とパウンドケーキをサーブしてから、ソファの端に膝をそろえて腰かけた。
「このケーキは、冷凍しておいたものを解凍したんですよ。みなさん、どうぞ召し上がってください」
そして、それぞれがカップに手を伸ばしたところで、おもむろに口を開く。
「今回のことは、大変痛ましいことでした。藍さんが乗った救急車を襲ったのは、やはり反対派の者たちでした。
ほかの信者たちとともに麓のログハウスで暮らしていた木崎は、反対派のスパイだったのです。」